時事問題の税法学
時事問題の税法学 第29回 タバコ増税
地方自治
2019.08.22
時事問題の税法学 第29回
タバコ増税
(『税』2018年3月号)
タバコ課税強化
デザートを終えた隣席の若いカップルの男性が、おもむろにタバコを吸い始めたときに、思わずギョッとした。ただすぐにここは名古屋だと思い返した。JR駅構内の高層階のどちらかといえば高級なレストランでのことだ。
年に数回、立ち寄る総武線・千葉県下の駅構内のカフェも、最近は喫煙用の部屋が仕切られたが、どうしても紫煙が漂う。毎週、大学院生たちとランチに行く神田神保町の地下にある飲食店では、喫煙の有無を聞かれるが、喫煙席の方が空いているので、我慢して食事をすることもある。
日頃、喫煙に厳しい横浜市内で生活をしているので、どうもタバコのにおいに敏感になる。週末を過ごす東海道の宿場で城下町のふるさとの街角では、歩行喫煙者が目につく。
東京都が準備している受動喫煙防止条例案では、飲食店の面積基準を緩和するという方針に、飲食業界は、「客離れ」の歯止めになると歓迎しているという。しかし、すべての飲食店が禁煙となれば、「客離れ」など関係ないと思える。喫煙人口からみれば、逆に喫煙可の飲食店の方が、敬遠され「客離れ」を助長するかもしれない。
走行中の東海道新幹線のなかで、通路を行き来する比較的若い男女が目立つ。それが喫煙ルームを利用している連中だと最近気が付いた。
20年ほどまえ、身体を張って多額納税していると豪語していたヘビースモーカーの同僚とタバコ課税について議論したことを思い出した。当時から喫煙者の生命保険料は制約があった。健康保険料はいうまでもないが、タバコによる失火が多いなら火災保険料、喫煙中の事故があるなら自動車保険料、タバコの吸い殻の掃除費用があるなら鉄道やバスの運賃など、喫煙者と非喫煙者の負担が同じなのは不公平ではないかという論争だった。個々の算定は難しいから、たばこ課税を強化することで公平性が保たれるという提起である。タバコ課税強化による喫煙者の減少統計が、国際機関から発表されていたのも議論の一因だった。結局、喫煙者は健康を損ね早死にするから、最終的に年金保険料で相殺されるというブラックジョーク的な結論で誤魔化された。この負担の平等論理からすれば、新幹線の喫煙ルームは、せめて10円玉ひとつでも有料にすべきとなる。
3段階で引き上げ
大学内でも教員の個人研究室内は聖域として喫煙している教員も多かったが、いまでは喫煙所の利用が当然とされている。現在、都内の私立大学法学部の教授であるかつての同僚にLINEしたら、「命がけで税金払っています!農家のために」ときた。還暦を過ぎたのにまだ吸っているらしい。
中高年は、驚くほど喫煙者が減っている。それに比べ、若い世代の喫煙者は減らない。若い喫煙者にも人気なのが電子タバコ(加熱式タバコ)のようだ。割高だと利用者はぼやいているが、追い打ちをかけるように今回の税制改正で、電子タバコへの課税を含む、タバコ増税が決まった。
改正は、平成30年10月1日、平成32年10月1日、平成33年1月1日の3段階と、5年かけて実施される。最終的には、紙巻きタバコに占めるタバコ税は、価格の70〜90%になると試算されている。
現行では、電子タバコと紙巻きとは、税額の算出基準が異なることから、電子タバコは、紙巻きより税額が低くなっている。そのため、電子タバコの税額は、紙巻きタバコのそれに近い負担割合になるようにする方針となっている。
かつてのビールと発泡酒の税率是正を思い起こす話であるが、企業努力による製品開発が価格競争を促し消費者の批判を受けた酒税と異なり、電子タバコ人気は、価格ではなく、健康対策が背景にある。量販店での安売り禁止対策と相まってビールの出荷量が減ったというから、酒税も減収した。この先、タバコ増税の影響で、喫煙者、つまり販売量が減少し、税収も減る。政府は、タバコ増税で喫煙者を減らすという健康政策を考えているのだろうか。だったら受動喫煙対策も完全実施すべきではないだろうか。