
自治体の防災マネジメント
災害関連死を防ぐために~介護施設を「命を守る拠点」にする~│自治体の防災マネジメント 第113回
NEW地方自治
2026.03.13
目次
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出典書籍:『月刊ガバナンス』2025年8月号
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※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2025年8月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
能登半島地震と熊本地震における災害関連死の現状
2025年7月1日17時16分に配信されたNHK NEWS WEB「321人はなぜ亡くなった 安心して暮らせるはずの場所で何が」に出演させていただいた。衝撃的だったのは、能登半島地震の災害関連死について、最終的に体調を崩された場所として最も多いのが介護施設だったことだ(図1)。
図1 能登半島地震 体調悪化の主な場所

出典:NHK NEWS WEB「321人はなぜ亡くなった 安心して暮らせるはずの場所で何が」(2025年7月1日17時16分配信)
能登半島地震では、直接死228人に対して、災害関連死が390人と1.7倍にのぼった。関連死として申請中の方もいることから、さらに増加することが見込まれている。その多くは80代、90代の高齢者であった。
介護施設以外では、避難所、さらに自宅で体調を崩されていた。災害から命は助かったものの、その後の避難生活の中で亡くなった方がこれほど多かったという事実は、災害対応の構造的課題を突きつけている。
これを熊本地震の災害関連死(図2)と比較すると次のようになる。
図2 熊本地震震災関連死 死亡時の生活環境区分

出典:熊本地震の発災4か月以降の復旧・復興の取り組みに関する検証報告書(2021年4月9日報道発表)
熊本地震で最終的に体調を崩された場所の1位は自宅であり、次に搬送先の病院、発災前から滞在していた病院、介護施設の順番で、避難所は相対的に少なかった。
たしかに熊本地震では病院が大きく被災したが、介護施設は大きな被害を受けておらず、電気は早めに復旧し、水道の復旧や給水活動も能登半島に比べるとずっと早かった。それでも、発災前から滞在していた介護施設での関連死は17人、全体の7.8%であった。一方、能登半島地震では、NHKが調査した321人中、介護施設で体調を崩された方が121人と、全体の37.7%にのぼる。
私自身、どちらの災害でも現場に入り、施設職員の声を聴いてきたが、人不足、モノ不足、そして停電、断水、通信不可、交通遮断など、ライフラインの影響が大きく違ったように思われる。熊本地震では、震源地のそばの熊本市が、自らも被災していながら、多くの支援者の支援拠点となっていた。一方、能登半島地震の支援拠点は金沢市であるが、奥能登地方との距離が離れていたため、介護だけでなくすべてにおいて支援が遅れ、不足していたことは否めない。
介護施設は地域の高齢者を守る最後の砦であり、その機能を維持することが地域全体の防災力の要ともいえる。もはや介護施設は地域福祉だけでなく、災害対応に向き合うことが求められている。
本稿では、災害関連死を防ぐために自治体として取り組むべき4つの対策を考えたい。
介護施設のライフライン維持と生活機能確保への支援
能登半島地震では、多くの介護施設で照明・暖房が使えず、冷え込む夜を毛布と重ね着でしのいだ施設もあった。また、調理ができず食事回数を減らした施設もある。これらが、高齢者の体調悪化につながった。
そこで、施設利用者のBCPはもちろんのこと、近隣の高齢者等に対する設備・備蓄への支援を強化する必要がある。
たとえば、非常用自家発電装置や給水設備などの設置、非常用トイレ、清拭用品などの備蓄支援がある。少なくとも、1週間程度は施設で対応可能な状況になるように支援することが重要である。その間に、被災地外の施設から支援が受けられるようなロジスティクスを検討しておく。
人手不足に対応する「広域支援ネットワーク」の構築
地震発生時、多くの介護施設では介護職員自身も被災し、出勤できない状況が続いた。介護職員が通常の2割以下になった施設もあった。極度の人手不足の中では、入所者の命を守るケアを維持するのは困難だ。また、地域の施設が一斉に被災した場合、近隣施設からの支援が望めない。
そこで、被災地以外から迅速に応援職員を受け入れることが重要になる。全国的な派遣調整も重要だが、時間がかかるおそれがあるため、それぞれの介護施設が事前に近隣・他県の介護施設と相互支援協定の締結等を行い、職員派遣、物資供給、入所者などの受け入れができるように体制を整えておくことが望ましい。また、災害派遣福祉チーム(DWAT)の受け入れと受援マニュアルを整備することも重要だ。
人手不足は、介護の継続や福祉避難所を運営するうえで最も深刻なリスクだ。自治体は、介護人材の確保を施設任せにするのではなく、関連死防止の重要項目として位置づけ、支援する必要がある。
入所者の「移動回避」と施設への避難体制の構築
高齢者の体調悪化の大きな要因の1つが「移動」による負担であった。能登地震では、複数回の移動を経て体調を崩し、亡くなった方が数多くいた。認知症や要介護の方にとって、慣れない場所への移動は極度のストレスと不安を伴い、命を縮めてしまうリスクがある。
そこで、できるだけ多くの介護施設を福祉避難所として位置づけ、地域の高齢者等、要配慮者を受け入れることだ。高齢者の移動が危険なことを、施設や住民に周知し、できるだけ移動を避ける。
自治体は、高齢者等が介護施設(福祉避難所)へ避難することを前提に物資や情報の優先供給体制を確立しなければならない。また、高齢者等は体調を崩しやすいため、医療・看護チームとの連携による支援体制が重要になる。
災害福祉支援体制の機能強化
能登地震は被害が広域にわたることもあり、公的支援が届くまでに時間がかかった。これが、災害関連死を防げなかった要因の1つでもある。2025年5月、災害救助法が改正され、「福祉サービスの提供」が救助対象に位置づけられた。今後は国も自治体も、災害福祉支援体制の整備により、関連死防止に努めなければならない。
一方で、救助法の対象に福祉サービスが加わったことで、災害時の市町村の負担がさらに増えるのではないかと危惧される。現状でも、大災害になると市町村職員は激務であり、国や県、そして民間を含めて負担軽減、肩代わりを積極的に行うことが求められる。
市町村は、平時に進めている個別避難計画の対象となる高齢者、障がい者、医療的ケア児等の情報の一元的把握により、災害時の避難はもとより、避難生活の支援制度に取り組むことが必要である。そして、発災後には介護施設との連携、行政職員の派遣により、不足する資源などの調達を迅速に行うことが求められる。
災害から住民の命と尊厳を守るという自治体の責務を果たすためには、発災直後の避難とともに、避難生活の質をいかに維持するかが重要である。施設入所者への対策については、これを、介護をはじめとする福祉施設に丸投げしていたのではないか。
これまでの教訓を踏まえ、自治体は地域防災計画・地域福祉計画・高齢者施策を見直し、平時も災害時も高齢者等を守り抜き、災害関連死ゼロをめざして一歩ずつ着実に進めていく必要がある。
著者プロフィール
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一 かぎや・はじめ
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。
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