徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第66話 豪雨時に川や田んぼを見に行く

地方税・財政

2020.03.10

徴収の智慧

第66話 豪雨時に川や田んぼを見に行く

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2019年12月号

近年の異常気象には相反する説がある

 近年の異常なほどの豪雨や、超巨大台風の襲来は地球温暖化の影響だともいう。気象問題にはまるで素人の筆者には的確な判断ができるだけの専門的な知見などあろうはずもないが、何と気象の専門家の間でも諸説があって定説と呼べるものがないようなのであるから始末が悪い。とはいえ地球が温暖化傾向にあるのは統計上の事実であるそうだから、これは誰しも認めるところかと思いきや、それすらもスパンの取り方によって「温暖化傾向にある」とするものと、「長期的にはむしろ寒冷化傾向にある」とする正反対の説が唱えられていると言うから、素人には全くお手上げである。

あえて危険な行動をする人々

 ところで、近年の異常なまでの雨の降り方と台風が超巨大化していることについては、体感的には確かに実感されるところである。そんな中にあってしばしば報道されているのが、「豪雨の時に川や田んぼを見に行って死亡する人」が毎年後を絶たないことである。あまりにも毎年繰り返されるものだから、最近ではニュースの中でも「危険ですから絶対に川や田んぼを見に行かないでください」と盛んに注意を喚起しているにも拘わらず、同様のケースが繰り返されるのはなぜだろうか。常識的に見れば、自然現象である豪雨や台風によってもたらされる洪水や崖崩れなどを見に行ったところで、防ぐことはおろかどうすることもできないのは明らかなのに、何がそうした人たちを駆り立てるのだろうか。農業者であれば、手塩にかけて育てた稲やその他の作物が台無しになってしまうかもしれないというときに、どうすることもできないからといって、ただじっとしていることができない胸騒ぎを覚えるのも心情的には理解することもできよう。かと思えばネット上には「水は高いところから低いところへ流れるから、自分の田んぼに溢れた水を、より低いところにある他人の田んぼへ流すために水流を変えようとして田んぼに出かけるのだ」などといった真偽の分からない「悲しい言葉」さえ拡散している。つまり、自分の田んぼを守るために、溢れた水を他人の田んぼへと流し込むために行くのだといった行動だというのである。このようなことは真実ではないと思いたいが、仮にそのようなこともあるのだとしたら、本当に残念だし、悲しいことである。

馬耳東風

 なぜこのような話を持ち出したのかと言えば、「人がいくら注意を促しても耳を貸そうとしない人」というのは、とても残念なことではあるが一定数いるのだという厳然たる事実である。電車内では携帯電話での通話を控えるよう車内放送で再三注意を促しているにもかかわらず通話をしてはばからない人も然りだし、歩きスマホは危険である上に、他人とのトラブルにもなりかねないのでやめるよう何度注意を促しても馬耳東風、どこ吹く風の人も少なくない。滞納整理だって同じである。何度納税誓約をしても約束を守らない(守れない)滞納者は後を絶たない。このような場合、約束を守らない滞納者も問題であるが、そのような滞納者に対して懲りずに再び納税誓約を認める徴税吏員も徴税吏員である。「懲りない」というか「学習効果がない」というか、いずれにしろその根底において「豪雨時に川や田んぼを見に行く人」と変わらないところがあるのではないか。「豪雨時に川や田んぼを見に行く人」の多くがそうであるように、ほとんど可能性がないことは分かっているのに、そうした非合理的で破滅的な行動に出てしまう心理はどの辺にあるのだろうか。単に「懲りない人」とか「学習効果のない人」と決めつけるだけでは問題の根本的な解決にはならない。滞納整理では分納の約束が守られなかったからといって人の命が失われることはないが、事は税収に関わることであり、近年における自治体財政の危機的な状況に鑑みれば、いいかげんに「納税誓約の仕切り直し」といった非合理的で(自治体の財源確保にとって)破滅的でさえある滞納整理の進め方を改めるべきだろう。長年やってきたやり方を改めるのは勇気のいることではあるが、滞納整理のプロであるべき徴税吏員が「懲りない人」や「学習効果がない人」であってはならないと考える今日この頃である。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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