自治・地域のミライ

ガバナンス編集部

自治・地域のミライ|出版記念鼎談(前編)吹田市が輪島市災害対策本部で一緒に悩んだこと

NEW地方自治

2026.01.28

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月刊ガバナンス2月号

月刊 ガバナンス 2026年2月号
特集1:行政×デザインのはじめかた
特集2:凸凹上司部下関係
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,320 円(税込み)
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大阪府吹田市防災政策推進監 有吉 恭子
大阪府吹田市危機管理室参事 柴野 将行
関西大学社会安全学部教授  越山 健治


2024 年1月1日に発災した、令和6年能登半島地震。大阪府吹田市は、発災後4日後の1月5日に、それまで何の交流もなかった石川県輪島市に職員を派遣した。それから約2年。その延べ人数は1000人を超える。輪島市災害対策本部に支援に入り、長期間伴走支援の中心的役割を果たした同市職員らが、現場での経験や、自治体間の相互支援の構築のポイントを『令和6年能登半島地震―吹田市が輪島市災害対策本部で一緒に悩んだ36のこと』という一冊の書籍にまとめた。

柴野将行さん、有吉恭子さん、越山健治さんの写真
左から柴野将行さん、有吉恭子さん、越山健治さん。

大阪府吹田市は、令和6年能登半島地震発生4日後にそれまで何の縁もなかった石川県輪島市に応援職員を派遣した。その中心となった吹田市職員の有吉恭子さんと柴野将行さん、支援のサポートをしてきた関西大学の越山健治教授に、災害時の支援のあり方や新著に込めた想いを聞いた(全2回)。

吹田市としての防災意識

有吉 私は阪神・淡路大震災の3か月後の1995年4月に入庁しました。最初の13年福祉部局、次が8年男女共同参画、その後10年が危機管理の3部署を異動してきました。

 2011年、男女共同参画センター時代に東日本大震災が起き、盛岡の女性センターからの支援要請で、物資を持って行きました。その時に様々な理由から、自治体が開設した避難所に避難できずにいる人たちがいることを知りました。とりわけ、性被害やDV被害から逃げていて、避難所に行けずに隠れている人たちに物資が届いていないという現実を知りました。また避難所もいくつか回り、その厳しい状況も目にしました。そのような経験もあり、危機管理部局への異動を希望しました。

柴野 私は、消防吏員として吹田市消防本部で採用されました。消防職員として、救助隊や消防隊、また消防本部などの現場を下支えするような勤務経験をし、2015年4月に危機管理室に異動となりました。それから11年防災行政に携わっています。翌年に有吉さんが異動してきて、そこから共に活動しています。

越山 お二人とは、私が以前所属をしていた、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター(以下、人防(ひとぼう))に調査研究に来てくれた際につながりました。

柴野 危機管理室に異動後、人防で研修を受講し、大きな学びがありました。これは市長ら幹部にもぜひ研修を受けてもらいたいと思い、2017年に研究員を招いて研修を行いました。

有吉 私も市長らとその研修に参加し、外部有識者の的を射た話に非常に感銘を受けました。

柴野 本市がより一層、防災に注力をしようとなったきっかけがこの研修だったように思います。

 さらに2018年6月には大阪府北部地震が起きました。市長もその災害対応をしながらも、行政職員だけの視点でなく、違った視点を持って対応にあたらなければならないと感じていたようでした。これから検証をしていくフェーズになり、知見がいるだろうと、有吉さんが10月に人防に行くことになりました。

人と防災未来センターでの学び

越山 ちなみに2016年の熊本地震の時は、お二人はどのような関わり方をしていたのですか。

有吉 熊本地震は建物の被害が大きかったため、技術系の職員派遣の後方支援や物資支援が中心でした。

柴野 支援対策本部を立ち上げましたが、当時は、災害対応の様々な知見を私たちも持ち合わせていませんでした。国で制度化されている消防や水道などのバックアップをすること、専門職を派遣することが危機管理の仕事だと思っていました。

有吉 しかし、大阪府北部地震を経験して、それだけではないということを実感しました。私は、何事も全部知りたくなり、深く掘っていきたくなる性格。人防に行って、この世界にのめり込みました。関西大学大学院の越山先生の研究室で学び、博士号を取得しました。

越山 大阪北部地震では、半年から1年をかけて人防の研究員らが被災自治体に入り、首長への助言などの活動を行いました。関西大学社会安全学部の教員も高槻市や茨木市の行政対応や検証に関わりました。

柴野 もともと人防は、俯瞰的な目線から被災地の首長や対策本部に助言やマネジメント支援を行ってきた蓄積がありました。熊本地震後に制度設計され、2018年3月に総務省で創設された応急対策職員派遣制度のはしりは、まさにこれなのです。

 今回の本にまとめた令和6年能登半島地震への私たちの派遣も、この制度の要請があり、登録していた災害マネジメント総括支援員(GADM(ギャドム))として、輪島市へ入りました。人防でのネットワークがこの派遣につながりました。

有吉恭子さんの写真
ありよし・きょうこ
大阪大学安全衛生管理部招へい教授/関西大学社会安全研究センター研究員/国立研究開発法人防災科学技術研究所客員研究員関西大学社会学部卒業。同大学大学院社会安全研究科博士課程後期課程修了。博士(学術)。
1995年吹田市役所に入庁し、福祉、男女共同参画、保健所、危機管理業務に従事。2018年から阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター研究調査員、2025年より現職。専門は、避難所の管理・運営、防災行政、災害対策本部運営など。中央防災会議専門委員の他、内閣府・文部科学省等の各種検討会委員、輪島市「令和6年能登半島地震及び令和6年奥能登豪雨災害対応検証委員会」委員を務める。避難所運営マニュアルや避難所空間、災害対策本部会議の実態解明などに関する論文を多数執筆し、地域安全学会論文奨励賞等を受賞。


これまでと違った支援の動き

有吉 現地では、首長にだけアクセスするのではなく、職員に対してもアプローチをしていきました。国の制度の中でだけでなく、人間関係をつくることや、その後の検証や復興のフェーズを見据えたコミュニケーションを意識しました。当市は、市長や副市長らが、全面バックアップ。心強いメッセージをいつももらいました。そして、越山先生を頼りました。阪神・淡路大震災以降の実践を積んできた研究者は、様々な知見を持っていたからです。

柴野 基礎自治体の職員同士での支援では、被災自治体に対してそれ以上は踏み込んではいけない部分、被災自治体にとって当然受け入れられないようなこともあります。そういった時に、小規模自治体の支援例など越山先生の豊富な知見に助けてもらいました。

越山 現場には、「やったことの引き継ぎではなく、業務ごとの引き継ぎをしっかりしてほしい。それをしないとその業務が継続せず、また課題がリセットされてしまう」ということを、とにかく伝えました。これはそれ以前の事例、研究がベースになっています。災害研究はたくさんの蓄積がありますが、その研究の蓄積を現場で生かしてもらうには、普段からの蓄積がないと難しいものです。このような知識支援を、二人のような外部から中に入っている人が核となり、現場に知識を入れていくことの実践が少なからずできたように思います。

柴野将行さんの写真
しばの・まさゆき
吹田市消防本部兼任消防司令長/建築士/日本大学理工学部客員研究員
2002年吹田市消防本部に拝命。東日本大震災では部隊の後方支援に従事。2015年4月より吹田市総務部危機管理室で勤務。2021年6月より現職となり、吹田市健康医療部を兼務。2016年熊本地震支援対策本部をはじめ、コロナ禍における感染症対策本部、不発弾処理対策本部、特殊詐欺集中対策本部、令和6年能登半島地震吹田市支援対策本部など、多様な災害・危機事象における本部運営をマネジメント。2023年4月から稼働した吹田市危機管理センターの機能と役割、空間設計を手がけ、近年では自治体が行う災害対策図上訓練の一般化に向けた設計にも注力。


それぞれの役割

有吉 現地では、私と柴野さんは基本的には違う部屋で業務にあたっていました。弱音などを聞き出し、それを柴野さんに報告し、柴野さんは、得意な解決策を考え、調整し意思決定まで持っていくことをやる。その間に私はまた話を聞きに行く──。相談と調整をずっとしていました。

柴野 「災害対応は頭脳戦」です。体力勝負でやりきるのは、被災自治体にとっても良くない。その場限りの支援になってしまいます。今後その被災自治体がどうなっていくのかを、被災自治体の職員と一緒に考えながら対応していくことが大切です。

有吉 時間や期間を意識して対応していました。支援する私たちにとってはあっという間の一日ですが、支援を待つ住民の方々にはとても長い一日です。そして、その一日だけでなく復興までの時間も考える。これも越山先生から教えられたことです。

柴野 私が災害対応の考え方の軸としていることが、「なぜ今、それをやるのか」という根拠を持って支援にあたることです。根拠を持って説明しないと、支援を受ける側も受け入れることができない。支援策を共有するときは、根拠を説明できるように資料の作り方なども意識していました。

越山 思いつきで支援をやろうとすると、制度上できないことがでてきます。しかし、それを乗り越えて対応した実績や事例が、過去の災害対応事例のどこかにある。その事例を根拠に国や都道府県と交渉ができます。しかし、被災自治体には非常に困難なこと。それを仲立ちするのがカウンターパートである支援自治体職員の役割だと思います。

 市町村と都道府県、国を動かしているものは法制度しかありません。だからこそ、法制度の中の、どのメニューを使うかを知っている人が支援する必要があります。

越山健治さんの写真
こしやま・けんじ
1971年生まれ。神戸大学工学部卒業。博士(工学)。
2002年から阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター研究員として勤務。2007年に研究主幹。2010年より関西大学社会安全学部。阪神・淡路大震災を大学4年時に経験し、それ以降、現在に至るまで防災研究を継続。『災害対策全書(2)応急対応』(公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構災害対策全書編集企画委員会編)の分担執筆など、防災・災害対策に関する執筆多数。


知見や経験を一般化するために

有吉 私は、能登の支援に入る以前に大学院で、災害対応は「調整力」ということを学びました。残された人、モノ、スペース、情報でどのように調整をしていくか。ないものを嘆くのではなく、あるものでなんとかするのが調整力であると叩き込まれていたことが、今回の支援でも生かされたように思います。

越山 有吉さんは19年から大学院に来て博士課程で論文も書き、様々な災害調査なども行ったことで、学識的な蓄積も持っていたことが輪島市での支援の現場にも生かされたのではないかと思います。

 平時からどういう知識、経験を持っていれば良いのか、どういう人材が必要か、いざという時に機能することができるか、それらを一般化するための条件は何か──この本から伝わればと思っています。

柴野 応急対策職員派遣制度によって、人的な精度は一定程度確立されていると思います。一方で、支援する人が頻繁に入れ替わるため、支援の“質”にばらつきがあるように感じました。私たちが、支援のばらつきがないようにするために日頃から根拠としていたものが、内閣府防災の「地方都市等における地震対応のガイドライン」です。これらを用いて一緒に対応していくと、被災自治体の職員の皆さんも納得感を持ってくれた。本の中で紹介したエピソードも、すべてガイドラインの項目に対応して実行してきたことです。根拠をしっかり示すことで、質を担保しながら支援することができたのではないかと思います。

鼎談の様子の写真

輪島市の想いも込めて

越山 被災自治体の外にいる人間にとっては、中で何が起きているかが見えてきません。どのような支援が必要かということを一緒に考え、調整できるのは、中で支援に入っている人たちです。必要な支援は何か、困難な状況を切り抜けるために行政施策として何を「生み出さ」なければならないのか、ということにもっと力を注ぐべきだと思います。

有吉 様々な地域の支援に関わっていると、人も足りない中で「生み出す」ということを普段から取り組んでいる組織とそうでない組織かが分かれるように感じます。言われたことだけをやっていく自治体と自分たちで何とかしようとする自治体。規模の大小に関わらず、その気質の有無はあるように思います。

越山 災害対応では、想定以上の業務も増え、調整しなければならないことが山のように発生します。膨大になりすぎて、現場では次々に生まれる課題に対して、あえて見ないようにすることもあります。しかし、それぞれの状況下で問題となっていることを、外部の支援者が内部の人たちと一緒に解決していかなければ、また同じような課題が様々な自治体で繰り返されてしまいます。今回の吹田市による輪島市での支援でも、どう困ったか、なぜできなかったのかもこの本では紹介されています。

有吉 この本は、うまくいったことばかりでなく、実際に起きていたことをできるだけしっかり記録しようと、輪島市職員の皆さんの想いも乗せてまとめました。

【後編は次号(3月号)に掲載します】

(取材・構成/本誌 浦谷收、写真/秦 裕一)

【新刊紹介】

令和6年能登半島地震 ―吹田市が輪島市災害対策本部で一緒に悩んだ36のこと

令和6年能登半島地震
吹田市が輪島市災害対策本部で一緒に悩んだ36のこと
【監修】越山健治(関西大学)
【編著】有吉恭子・柴野将行 (吹田市、関西大学すいた防災ラボ)
【編集協力】吹田市・輪島市
販売価格:3,300 円(税込み)
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現場性と客観性の両方を備えた、受援側・支援側双方に役立つ災害対応の実務マニュアル
2024年1月1日の令和6年能登半島地震発災直後から石川県輪島市災害対策本部に支援に入った著者らが、災害対策本部支援のリアルを詳細に紹介。
被災地に「寄り添う」支援のための考え方やポイント、災害対策マニュアルの見直しにも活用できる一冊。

 

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月刊ガバナンス2月号

月刊 ガバナンス 2026年2月号
特集1:行政×デザインのはじめかた
特集2:凸凹上司部下関係
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,320 円(税込み)
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