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自治体DXナビ 異なる自治体で得た視点から考える(前編)─地方自治体の個性を尊重した運営の未来

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2025.11.21

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この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2025年8月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

自治体DXナビ
異なる自治体で得た視点から考える(前編)
─地方自治体の個性を尊重した運営の未来

奥州市総務部行革デジタル戦略課 DXマネージャー 早川 浩子

 システムインテグレーターとして主に東京で業務をしていた日々から一転、DX専門員として長野県駒ヶ根市と岩手県奥州市に単身赴任。異なる地域で2年間ずつ生活し、その土地ごとの文化や人々の価値観に触れる中で、自治体運営の実情や課題を身近に感じる機会に恵まれました。

 DXを指導する立場として、駒ヶ根市と奥州市という二つの自治体に深く関わり、自治体職員の方々と机を並べて過ごしながら、「地域特性」を反映させた施策のあり方について考えてきました。

 本稿では、それぞれの自治体の個性とともに課題も明らかにしながら、現場から生み出されたDXの推進事例を紹介し、全国の自治体の「未来」に向けて身近な施策導入の様子をまとめてみます。

自治体運営と民間運営の違い

 まず、この4年間で派遣された先で感じたことは、自治体と民間の、運営に対する姿勢の違いでした。それは、まさにカルチャーショックでした。

 民間企業の多くは各社独自の理念を掲げつつ、「利益」という数字で表せる分かりやすい共通の目標に向かい、特定の顧客に特化したサービスを提供しますが、自治体は違います。住民一人ひとりに対して「公平で包括的なサービス」を提供しなければなりません。これがシステムの作り方にも反映されるわけです。

 また、行政職員は広範囲にわたる業務を担当しているので、高い裁量権を持っているにもかかわらず、前例を踏襲する傾向があります。これは今まで培ってきた前任者の業務経験を尊び、正しくあろうとする慎重な姿勢が背景にあると感じます。

 一方で、これからの自治体は、地域を取り巻く急激な環境変化や多様化する住民の声を反映しながら運営していかねばならず、地域のニーズに応じた柔軟な対応が求められます。そのような視点から、以下ではDXの取り組みを紹介する前段として、駒ヶ根市と奥州市のそれぞれの地域特性や地域が抱える課題を紹介したいと思います。

高地に位置する観光都市:駒ヶ根市の個性と挑戦

自治体DXナビ17 中央アルプスの様子
沈む月と朝日をあびて輝く中央アルプス(モルゲンロート)(駒ヶ根市)

 「日本百名山」の中でも人気のある木曽駒ケ岳は、標高が高いにもかかわらず、日本一の駅間高低差を誇るロープウェイに乗れば気軽に頂上に近づくことができます。標高2,612メートルの千畳敷駅を降りて、見渡す限りの日本有数の山々を眺めながら山の清水で淹れたコーヒーを飲むのはまた格別です。

 様々な難題を克服して完成したロープウェイは、夏のピーク時は朝6時に行っても待ち行列という人気ですが、時の経過とともに保全に苦労しています。通信状況については時代のニーズに合わせ、ロープウェイ駅のWi-Fi整備など改善していますが、リピーターを確保し続けるには現在の工夫だけでは超えられず、まるで大きな山が聳え立っているようです。

 また、市内どこでも車で15分程度で行き来でき、行政と住民が会話、連携しやすい環境にあります。医療や福祉で課題もありますが、市民は市政と職員を頼りにしている印象です。

 最近の特徴的な一例として挙げたいのは、公共交通バスを廃止したこと、そして後にオンデマンド・タクシーの運営やタクシー補助券を発行するなどの取り組みで住民の移動手段の確保に努力していることです。

 ある時は「昭和」、ある時は「令和」を感じるので、生活慣習の過渡期なのだなあと感じます。慣習を変えるには市民、職員とも「気持ち」を動かす力が必須といえます。

歴史と未来が交錯する広大な平地:奥州市の挑戦と可能性

自治体DXナビ17 田んぼアートの様子
米どころならではの田んぼアート。市の誇り大谷翔平選手(奥州市)

 奥州市は、前沢牛という日本一と認められたブランド牛や米、歴史ある南部鉄器などがあり、地域資源を活かした産業が盛んです。特に広大な土地を活かした大規模な農業や工業が発展しており、工場誘致も積極的に行われています。土地整備状況を見学した時には、「山を崩して整地するとはこういうことなのか」と普段ではなかなか見ることのできない一場面も経験できました。

 特徴的なのは地域の文化や歴史を守り続ける市民の姿勢です。祭りや踊りといった伝統行事には、古くは平安時代からの文化が息づいています。その文化を披露するイベントも多く、また自主的な市民参加が多いことも奥州市の魅力です。

 しかし、賑わっていても人口は増えず、「平成の大合併」から20年が経過した今、人口は約20%減少しており、将来的な人口維持が課題となっています。

 ここで今大きく話題となっているのは各地区に整えられている公共施設等の管理運営問題です。半数以上が30年を経過した施設であり、施設の長寿命化を進めていく必要がある一方、人口減少や市民ニーズの変化に伴い、施設数の最適化も進めていかねばなりません。

 奥州市出身の大谷翔平選手のような真面目で芯の強い方の多い、10万人超の市民の間で様々な意見が交わされていますが、同一方向に向くには時間もかかります。これまで各地区の文化を守ってきているだけに、地域活動の拠点としての役割をどう再構築していくかが問われ、まさに曲がり角にきていると言えるでしょう。

地域特性を基に描く自治体運営の未来

 駒ヶ根市と奥州市という異なる文化を持つ自治体の運営では、それぞれの地域特性に合わせた施策が既に進められています。

 それでも、自治体窓口では毎日、訪れた市民の悩みをきくなど業務に追われています。郵便物を開封し、中身をチェックして、システムに入力する。そしてある時いつの間にか人口減少や環境の変化、社会の変化が、市民や企業と自治体をつなぐ窓口で見えてくる。そしてそこからDXは始まるのです。

 見えてきた課題も人口数によって対応の方法が異なってきます。コンパクトな市は職員の数も限られ、一人に任せられる業務が多くなっています。そうすると、休暇を取る場合は、代理ができる限られた複数の同僚との調整が必要で簡単にはいきません。人口が多いとその分職員も多いので、個人が担当する範囲が限られますので、そういった特殊なケースを担当する職員は、休暇を取るための、同僚との調整が大変です。

 一方、日々の業務の中で未知の新しい情報を得るにはかなり積極的に動く必要があります。インターネットで手軽に得られる情報が多くなり、個人として情報収集にかける苦労は大幅に減ったとはいえ、実際の自分の業務に当てはまる情報を収集するのはそう簡単ではありません。

 しかし、逆にいえば、一つの業務に関わる人数が少ないほど、限られた人数の合意で手順等を変えることが十分できます。業務を自分も含めた複数の目で、手順を改めて見直すことで、改革のヒントが見えてきます。例えば、市民からの申請受付業務に関しても、項目をチェックすることで業務手順や必要性に関するアイディアが出ることがあります。つまり、業務を変革したいと意識したとき、そして職員ご本人がそれを言葉にしたときが、小さいけれど大切なDXのスタートなのです。

 解決の方策がデジタル技術の進化にマッチするものもあれば、まだ時期尚早なものもあります。次号では、実際現場と会話しながら進めるいわゆるボトムアップによるDX事例をいくつか紹介します。

Profile

早川 浩子 はやかわ・ひろこ
日本電信電話株式会社(現・NTT株式会社)と日本アイ・ビー・エム株式会社の合弁会社として1985年に設立された日本情報通信株式会社にて基盤SE、NWSE、クラウドサービスマネージャーを経て社内DX部門にて社内請求書DXプロジェクトを牽引。2021年よりDX推進部デジタル行政推進担当にて自治体DXを担当、長野県駒ヶ根市DXチーフマネージャーののち現職。

 

この記事は、前・後編の「前編」です。
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