
新・地方自治のミライ
地方自治のあり方に関する議論のミライ|新・地方自治のミライ 第110回
NEW地方自治
2026.02.03
出典書籍:『月刊ガバナンス』2022年5月号
「新・地方自治のミライ」は「月刊 ガバナンス」で過去に掲載された連載です。
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本記事は、月刊『ガバナンス』2022年5月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
はじめに
昨今、新型コロナウイスル感染症への対応や、国・地方を通じた行政のデジタル化にかかる法制度の企画立案などに際して、国・地方関係や地方自治のあり方に関する議論が提起されているという。地方分権を理念的基調としてきた過去30年とは異なり、時代に適した(集権的な)あり方を模索する動きである。このたび、総務省から『デジタル時代の地方自治のあり方に関する研究会報告書』(以下、『報告書』)がとりまとめられたので、今回はこれを素材にして考えてみよう。

問題意識の問題性
『報告書』が念頭に置く問題意識は、例えば、以下の通りである。①国・自治体間での意見相違や連携不足の顕在化、②国から大量発出された通知の現場への不浸透、③自治体ごとの個人情報保護の運用差異(いわゆる「2000個問題」)、④給付金交付でのデジタル化の不充分と窓口混乱・負担、⑤国・自治体間での複数システムの併存・急造による混乱・作業負担、などである。まとめれば、「地方自治」「地方分権」を重視する意識が支障となったという指摘である。
もっとも、こうした問題意識自体が問題であるというのが、分権型社会の発想である。①国・自治体間の意見相違は当然である。間違えた国の意見への自治体からの異論が表面化せず、唯々諾々と間違った政策に連携して実施する方が問題である。要するに、『報告書』が直面する問題意識は、国の政策が「正しい」ことを前提にしている集権型国家の発想である。他の諸点も同様である。
②国(本省)が実施現場も考えずに通知を大量発出すること自体が、国の机上論(バーチャル)的な対応の弊害の現れである。それは、実施現場が国の地方出先機関や民間事業者であっても同様である。③自治体ごとの運用差異を問題視することは、地方自治の否定である。国の誤った個人情報不保護に対して、自治体が異なる対応をできることは、むしろ望ましい。
④給付金交付でデジタル活用ができないのは、国でも同様である。自治体現場の実行可能性を考えずに、国がデジタル化を机上論(バーチャル)で展開して、自治体が尻拭いを強要されたに過ぎない。⑤急発生した政策課題に国・自治体がそれぞれに対応したがゆえに併存・急造されるのは短期的対処での強みである。漫然と、どこかの本省によるシステム開発を待ち、使い勝手の悪いシステムを墨守し続ければ、混乱と負担はなかっただろうが、民衆は困っただろう。
国の政策が「正しい」という集権型国家の前提に基づけば、上記の問題意識が生じるし、国の政策が「正しい」とは限らないという分権型社会の前提に基づけば、上記の問題意識自体が問題である。このように見てくると、問題が何であるかと捉える前提枠組こそが、過去四半世紀で変質しつつあるのであろう。
21世紀第1四半期の実態
過去四半世紀は、順調に分権化してきたかというと、実態はそうではない。例えば、国策による雪崩的な平成の大合併、三位一体改革による地方財政窮乏、法定財政再建(再生)に伴う市町村予算の国・都道府県管理と早期是正、集中改革プランによる人員削減と非正規労働化、特区方式を通じた国による自治体の取捨選別、国の事業メニューや制度・意向に差配される災害復興、地方創生交付金による自治体誘導、しばしば資金提供と結合した計画策定による誘導など、実態としての国の権力の拡大は観察されてきた。
この事情は『報告書』でもまとめられている。社会経済情勢の変化に対応した制度整備として、集権的制度が導入された。また、災害対策・公衆衛生対策・食品衛生管理などで全国画一ルールが強化された。さらに、社会全体のデジタル変態(DX)を契機として、個人番号制度や行政手続オンライン化、自治体情報システムの標準化、個人情報保護の画一化などが進められた。もちろん、地方分権・地方自治の理念によって一定の歯止めはなされたとされるが、分権型社会の理念が後ろ向きの守勢に立っていることは否めない。

前提枠組の対立
『報告書』によれば、「地方分権改革と集中・集権を指向した他の諸改革(選挙制度改革や内閣機能の強化等を図る国の行政改革など)が同時に行われ、その違いが顕在化したことにより混乱が生じた」とされる。そして、小泉政権・第2次安倍政権によって強まった後者の流れは、上記のような集権化を、実際の地方自治の現場に生み出してきた。
それでもなお、『報告書』が指摘したような「混乱」が生じたのは、分権・自治の実態も多少はあった証左ではある。仮に、「国のかたち」が完全に集中・集権化していれば、混乱は生じ得なかったであろう。もっとも、分権型社会の理念がより強ければ、こうした事態は「混乱」と認識されず、むしろ、正常な相互作用と受け止められよう。あるいは、国の現場を見ない場当たり的介入が批判されたであろう。
前提枠組が異なれば、同じ現象や事象が全く正反対の評価と位置づけをされることが『報告書』でも示されている。『報告書』では、「……といった(/との)意見もあった(/ある)」「……との指摘がある」「議論がある」との表現が多用されており、両前提枠組の調和は容易ではない。かろうじて、保健所業務を国が自ら実施することや保健所を国の直轄機関にするという、机上論(バーチャル)に対してだけは「現時点では課題が多い」と却下できた程度である。

議論のあり方のミライ
地方分権改革・分権型社会(「地方分権型行政システム」)と集権型国家(「集中・集権を指向した他の諸改革」)は、前提枠組の対立であり、実例や論拠を挙げての制度論議が難しい。国の政策に誤謬が少なければ後者が、国の政策に誤謬が多ければ前者が優位に立つかも知れないが、そもそも、政策の誤謬という判定自体が前提枠組に左右される。同じ問題事象が、前者の前提枠組では国の判断ミスや机上論(バーチャル)の所為とされるが、後者では自治体の抵抗・異論や現場での不徹底の所為とされる。
そうなると、勢い空気で決まり、結局、国の政権党や官僚の気分次第となる。国の為政者は世のため人のためになることをするつもりで国の政務・事務職に就いているのであり、国の政策に誤謬が少ないと信じる傾向がある。こうして、放っておけば後者が優位する。
『報告書』は、両者の両立または棲み分けの策を、試論的に提示している。一つは、「平時」と「非平時(緊急時など)」の切り分けである。二つは、「何をするか」と「どのようにするか」である。前者は分権型社会に傾き、後者は集権型国家に傾くかも知れない。
もっとも、「非平時」は「平時」の延長でしか事務はできない。また、どちらかというと、国の関心は結果(「何をするか」)にあって、方法(「どのようにするか」)の義務付け枠付けの方が緩和されやすい。こうして考えると、二つの前提枠組の調和は容易ではない。
『報告書』は、最終的には、国と地方との間、および、自治体相互間の「協力」と「連携」とを提唱する。これは、国・自治体・民間を含めた対等・協力を含意する分権型社会の発想に見える。ただ、それでは集権型国家の前提枠組に立つ反論を止揚したようには見えない。そこで、あたかも、地方分権改革は国と地方の関係を上下・主従の関係から対等・協力の関係へ転換したものにすぎない、と限定して位置づけ、『報告書』はそこから拡大したかのように記述した。
しかし、実際には、集権型国家論への有効な反論も、塹壕戦としての棲み分けもできず、分権型社会を超える新たな理念を生み出すこともできなかった。これが現時点での知的到達点であり、四半世紀前の委員会の知的水準から何の進捗もない。ベースキャンプから滑落し、非常時とデジタル化の空虚な絶叫のみが木霊するのが、昨今の惨状なのである。
著者プロフィール
東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき
1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。
主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)、『行政学講説』(放送大学教育振興会、24年)、『自治体と総合性』(公人の友社、24年、編著)。
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