【カスハラ対策】お客さまを出入り禁止にする手順を解説
NEWぎょうせいの本
2025.06.03
職場に1冊は置いておきたい、カスハラ対策ハンドブック

Q&Aカスタマーハラスメント対策ハンドブック
-平時の備えと有事の対応-
編著者名:日本弁護士連合会 民事介入暴力対策委員会
販売価格:3,630 円(税込み)
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2025年4月1日、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(カスハラ条例)が施行されました。
これにより、企業や自治体にも適切な対応策の整備が求められています。
「Q&Aカスタマーハラスメント対策ハンドブック」では、弁護士が相談を受けた “現場の困った要求” への対応をQ&A形式で解説。44のQ&Aで基本から業界別の事例までが理解できます。
本記事では、お客さまを出入り禁止にする際の手順を抜粋してご紹介します。
カスハラ対応の参考として、是非チェックしてください!
この記事で分かること
・出入り禁止にする手順
・出入り禁止を通知する方法
・通知方法別の留意点
・出入り禁止通知後の手順
・それでも来店された場合
出入り禁止②―手順

私は、繁華街で小さな居酒屋を経営しています。当店の顧客の中に、特定の女性従業員に好意を寄せ、用事もないのに話しかけ、執拗に食事や外出に誘ってくる者がいます。その顧客は、他の従業員に対しては露骨に無愛想で、接客態度がなってないと怒鳴りつけたり、酔って店内で騒いだりして、従業員や他の顧客の迷惑にもなっています。先日は、その女性従業員が別の顧客の接客中に、強引に会話に割って入り、顧客同士で押し問答になって、警察を呼ぶ事態も生じました。
営業妨害も甚だしいので、次に来店した際に、再び迷惑行為をしたときは、出入り禁止にしようと思っているのですが、具体的には、どのような手順で進めたらよいでしょうか。また、出入り禁止にしたにもかかわらず、懲りずに来店したときは、どうしたらよいでしょうか。

・出入り禁止は、顧客に出入り禁止の旨を明確に通知すれば足ります。必ずしも書面でしなければならないものではありません。
・出入り禁止にした場合には、実効性を確保するために、従業員に対しても当該顧客を出入り禁止にした旨を周知し、来店した場合に備えましょう。
・出入り禁止後も顧客が来店した場合には、退去を促し、それでも頑なに拒む場合には、警察の協力を求めることも考えられます。
1 出入り禁止の通知
(1)通知の方法
出入り禁止の通知方法に特に決まった様式はありません。そのため、顧客が店舗に来店している場合に口頭で通知する方法でもかまいません。
また、口頭以外にも電話、メール、手紙等で通知する方法が考えられます。電話、メール、手紙等による通知は、会社が直接することが多いと思われますが、顧客やカスタマーハラスメントの内容次第では、代理人弁護士から行うということも考えられます。
なお、電話、メール、手紙等の方法は、顧客の電話番号、メールアドレス、住所・氏名などを把握していなければできません。これらの方法で出入り禁止措置を通知するためには、あらかじめカスタマーハラスメントをする顧客の情報を収集することが必要です。
(2)通知内容
顧客に対して、以後の来店を拒絶する旨を明確に通知します。顧客が来店している場合には、あわせて、退店を促すことも必要となります。
顧客としては、出入り禁止措置は屈辱的であり強い反感を覚えることは想像に難くありません。そのため、出入り禁止を通知する際の表現の強さは事案に応じて調整することになると思われますが、少なくとも、来店を拒絶するという旨が明確に伝わる表現にすることが必要です。
(3)責任の所在の明示
現場担当者や顧客対応責任者が出入り禁止を通知する場合には、出入り禁止の判断の責任の所在を明確にするため、会社としての判断であることを明確にしましょう。
(4)記録化の重要性
後日、顧客との間で「出入り禁止を通知した」「通知されていない」といった争いが生じないよう、出入り禁止にした旨は、業務日誌や報告書などに記載し、必ず記録化しておきましょう。
(5)方法別の留意点
(ア)口頭で通知する場合
来店している顧客に口頭で出入り禁止を通知する場合、顧客が興奮して逆上する可能性も想定されます。そのため、出入り禁止の通知は、他の顧客のいない場所でするのが望ましいでしょう。また、この場合、対応についても一人ではなく複数で行うべきです。
特に、顧客が酒気を帯びている場合や興奮しやすい人物である場合などは、警察の助力を要する不測の事態が生じる可能性も念頭においた備えが必要です。
(イ)電話で通知する場合
出入り禁止の旨を電話で通知する場合、来店時に口頭で通知する場合と同様に顧客が興奮して逆上する可能性があり、電話口で更なるカスタマーハラスメントがなされる可能性もあります。
電話は、即時性がある分、対面の場合と同様に従業員の心理的負担が大きいといえます。そこで、通話者は一人だとしても、複数人が周囲に待機している場で電話をする、通話内容については録音するといった対応を検討するのがよいでしょう。
(ウ)文書で通知する場合
出入り禁止の旨を手紙で通知する場合や、来店している顧客に対して口頭と併せて書面を交付して出入り禁止を通知する場合、顧客の手元には文書が残ることになります。このため、文書の記載内容によっては、揚げ足を取られて更なるトラブルを招く可能性もありますので注意が必要です。
また、その文書がSNSなどに掲載される可能性もあります。文書で通知する場合には、当該顧客だけでなく第三者の目に触れる可能性があることを十分に認識した上で、事実に反した表現、誇張した表現、差別的表現、侮蔑的表現、その他法的・倫理的に問題となる表現がないか等を十分に吟味する必要があります。
判断に迷う場合には、事前に弁護士等の専門家に相談することも検討しましょう。
(エ)メールで通知する場合
出入り禁止の旨をメールで通知する場合も手紙・文書の場合と同様に顧客の手元にメールの文面が残ることになりますので、送付する文面には注意が必要ということは同様です。
また、メールの場合、顧客が見落とすことや、迷惑メールに分類されてしまい顧客の目に触れないというリスクもあります。更に、顧客が確認したとしてもメールという媒体の手軽さから、顧客が事態を軽く見てしまい、出入り禁止措置の趣旨が上手く伝わらない可能性があることにも留意が必要です。
2 出入り禁止通知後の手順
(1)従業員への周知徹底
顧客に出入り禁止の旨を通知したとしても、その事実を知らない従業員がうっかりと顧客の来店を許してしまい、その際に、再びカスタマーハラスメントが生じてしまうと、出入り禁止の意味がありません。また、このような場合、顧客から、出入り禁止後も堂々と入店したが何ら咎められなかったといった無用な反論を招いてしまうことになります。
そのため、顧客を出入り禁止にした場合には、実効性を確保するために、従業員に対しても、当該顧客を特定するに足りる情報を伝え、当該顧客を出入り禁止にしたこと、及び当該顧客が来店した場合には入店を拒むとともに速やかに顧客対応責任者に報告することを周知しておく必要があります。もっとも、ショッピングモールやデパートなど多数の従業員が所属している施設の場合、出入り禁止措置を講じた顧客を全て記憶して、来店時に退店を促すように求めることは現実的ではないため、出入り禁止措置の実効性には一定の限界があることにも留意が必要です。
(2)出入り禁止情報の掲示・掲載
出入り禁止にしたからといって、当該顧客の顔写真や氏名・住所等を店頭や店内など第三者の目に触れる場所に掲示することや、HP・SNS等に掲載することは、当該顧客の名誉権やプライバシー権の侵害となり、新たなトラブルを生じさせることになるため、厳に控えるべきです。
3 出入り禁止措置を講じた顧客が来店した場合
店舗等の施設管理者(店長)は、施設管理権に基づき、「いつ」「誰が」「どのような態様で」「どの場所に」立ち入りを認めるかを決める権限があります。例えば、営業時間中に顧客が自由に店舗に入れるのは、店舗が「営業時間に」「一般の顧客が」「買い物をするために」「従業員スペース以外のスペースに」立ち入ることを認めているからです。
出入り禁止は、契約自由の原則に基づき、その顧客と将来にわたって取引(サービス提供)を拒絶するとの意思表示であり、取引が店舗等の施設でなされる場合には、出入り禁止には、施設への立ち入りを将来にわたって認めないという趣旨も含まれます。したがって、出入り禁止とされた人物の来店は、許可のない不法な立ち入りということになり、建造物侵入罪や不退去罪(刑法130 条)に該当する可能性があります。事件報道としても、コンビニエンスストアで店員を怒鳴るなど迷惑行為を繰り返し、店側から「出入り禁止」を告げられたものの、その後も何回も店に現れていた人物について建造物侵入罪で逮捕されたとの事例(令和5年)があります。
そこで、出入り禁止を通知した顧客が来店した場合には、立ち入りを認めないことを説明し、入店を拒むことになります。退去を求めても帰らない場合には、建造物侵入罪や不退去罪として、警察に対応してもらうことも考えられます。
4 設例の場合
当該顧客が次回来店し再び迷惑行為をした際には、出入り禁止措置の旨を明確に通知しましょう。出入り禁止措置を通知する際に当該顧客が好意を寄せている女性従業員や他の顧客の前で出入り禁止を伝えると当該顧客が逆上する可能性も高いと思われるため、なるべく第三者の目がない場所で、かつ、複数名で対応し、あわせて、有事の際には警察への通報もできる態勢を整えておくのがよいでしょう。
また、出入り禁止を通知したにもかかわらず、再度来店した場合には、立ち入りを認めずに退去を促し、それでも居座る場合には、警察に臨場を求めましょう。
▼『Q&Aカスタマーハラスメント対策ハンドブック』では
他にも次のような内容を読むことができます。
・土下座を要求されたときの対応
・土下座をしてしまった後の対応
・フルネーム、自宅の開示を要求されたら
・録画・録音されたら?
・SNSで拡散されたら?
・業界別対応
(小売業/食品・飲食業/旅館・ホテル/病院・介護/コールセンターなど)
ほか
弁護士が相談を受けた“現場の困った”要求にどう対応するか(業界別に)分かる!!

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