議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第2回 なぜ、議員だけが「先生」と呼ばれるのか?

NEW自治体法務

2020.04.09

議会局「軍師」論のススメ
第2回 なぜ、議員だけが「先生」と呼ばれるのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2016年5月号

なぜ職員は議員を「先生」と呼称するのか

 私が議会局(当時の議会事務局)に着任して間もない頃、執行部時代からの習慣で、議員を「先生」と呼んでいたことがある。だが、議員からは「事務局から『先生』と呼ばれるのは変だよね」と言われ、局職員からも「ここでは議員は身内だから、『議員』と呼んだほうがいい」と意見されたことがある。そういわれれば、市長のことを「先生」と呼んだことなどないのに、なぜ議員のことを「先生」と呼んだのだろうか?

 他議会で議員を先生と呼ぶ人からは「選挙で選ばれた市民の代表(以下、『公選職』)だから敬意を表するうえで当然」との意見も聞くが、やはり同じ公選職である首長のことを、職員が「先生」と呼称している例は聞いたことがない。そして心理的上下関係を印象づける呼称の違いが、そのまま任命職である職員の、公選職に対するスタンスの違いにも反映されている。

 それは、執行部ではボトムアップによる政策提案もめずらしくないが、議会では「職員から発意すること自体が越権行為」とされることに象徴される。議会のほうが、公選職と任命職の距離がより遠いのである。だが、公選職に仕えるという観点からは、どちらの職員の立場にも違いはないはずである。

 法的にも首長は「その補助機関である職員を指揮監督する」(地方自治法154条)とされ、一方、議会では「事務局長は議長の命を受け、職員は上司の指揮を受けて、議会に関する事務に従事する(一部略)」(同法138条7項)とされる。つまり、議長と局職員の関係は、首長と職員の関係と同様の上下関係である。逆に言えば、それ以外の議員には局職員に対する指揮命令権もなく、その法的関係は執行部における関係よりも、むしろフラットともいえる。

 また他の観点からも、独任制機関の職員からの発意は許容されても、合議制機関の職員からは許容されないとする法的根拠もない。最終的な意思決定ができるのは、首長、議会であるが、議会の場合にだけ議論の過程に職員が関わることができないとする合理的理由もない。選挙で選出された民主的正統性の有無についても、それは首長と執行部職員との関係においても同様である。議会における民主的正当性は、本会議や委員会での議論、議決に加わるための要件であり、それ以外での議論に局職員が参加できない根拠とはならない。ゆえに職員が議会内部での議論、発意を行うには、公募の競争試験で選抜されて議会に配置された、任命職の法的正統性をもって必要十分であろう。

局職員の立ち位置とは

 では、なぜ局職員は議員との距離を置こうとするのか? あくまで私見だが「そのほうが局職員にとってラクだから」というのが本音ではないだろうか。議員と必要以上に近づけば、事の顚末に巻き込まれる可能性が生じる。そして、局職員から下手に近づかないほうが賢明、という潜在意識が「議員からの求めがない限り職員から発意などしない」という行動にもつながるのではないか。

 つまり、議員を「先生」と呼ぶのは、敬意の裏返しとして生じる心理的上下関係によって、あえて議員との距離を保ちリスクヘッジしようとする意識の表れと思うのは、的外れな分析だろうか。

 だが、議員との遠い距離感は、時には局職員から広義での議会構成員としての自覚を奪い、確信的「ひとごと意識」へとつながる。その弊害について、次号で述べたい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
清水 克士(大津市議会局長)
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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