議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第14回 「地方議会」は国会のミニチュアなのか?
地方自治
2020.07.02
議会局「軍師」論のススメ
第14回 「地方議会」は国会のミニチュアなのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2017年5月号)
中央集権の呪縛
大津市議会の政策立案手法に関して、ある学会メンバーと意見交換した時のことである。先方の国会法制局出身の大学教授から、議会局職員の政策形成過程への関与について異議が唱えられた。それは、法制局においては、議員からの求めを受けて法制意見を述べることはあっても、政策立案内容そのものに予断を与えかねない意見や、ましてボトムアップで政策自体を提案することなどあり得ず、大津市議会局の政策立案に対するスタンスは出過ぎではないか、との趣旨であった。
大津市議会での政策立案の多くは「政策検討会議」というスキームによっている。議会運営委員会で承認された政策立案テーマについて、提案会派から座長を出し、全会派から当該テーマの議論に相応しい議員を1人ずつ選出して構成する議員間討議のためのものである。最大の特徴は、委員の構成比が議会の会派構成比とは異なり、結果的に少数意見が尊重される議論が実現することである。会議運営方針については、座長の思いによるところが大きいが、最近では最初から局職員も議論の輪の中に同席させ、意見を問う会議もある。たしかに、地方議会においても、局職員を議論に参加させるようなことは、異例なことのようではある。
だが、執行機関においては、職員がボトムアップで公選職たる首長に政策提案することは珍しいことではなく、それは中央政府においても同様であろう。議事機関においても、局職員が公選職たる議員に政策提案をすることを禁ずる法はない。それは、国会と法制局の関係においても同様で、国会法131条で「議員の法制に関する立案に資するため、各議院に法制局を置く」と定められるのみである。そして「立案に資する」とは、法制執務上の条文化作業を担うだけではなく、政策形成過程に関与することを含むとの積極解釈も可能ではないだろうか。最後に決められるのは議員だけであり、そのような解釈をしても、何の問題もないと思うのであるが──。
国会と法制局の関係性をとやかくいうつもりは毛頭ないが、国会における常識に地方議会も準拠すべきともとれる論理に違和感を覚えるのは事実である。国会と地方議会はともに合議制機関という共通項もあるが、議院内閣制の国と二元代表制の地方では大前提の制度自体が異なる。地方議会が国会のルールに準拠すべき合理的根拠は見当たらず、私には未だに中央集権の呪縛に囚われているだけのようにも感じられるのである。
地方議会が地方を変え、地方が国を変える
自治体の主要な政策形成は、首長、議会のどちらも個人ではなし得ない。議会は複数の公選職で構成される合議制機関であるがゆえに、一義的には議員間のチームワークが問われ、局職員との関係性が論点になることは少ない。しかし、議員と局職員の協働関係の構築は、「チーム議会」の必要条件である。
大津市議会では、全国で報道されたいじめ事件の発生を受けて、議員提案で「いじめ防止条例」を制定した。これはまさに議員と局職員の協働の成果であり、後の「いじめ防止対策推進法」制定の契機にもなっている。
「地方議会が地方を変え、地方が国を変える」とは、北川正恭・早稲田大学名誉教授の金言であるが、その言葉どおり、いつか大津市議会が国を変える地方議会と言われるよう、私も「チーム大津市議会」の一員として議会を支えていきたい。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。