議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第3回 議員のやることは「ひとごと」なのか?

地方自治

2020.04.16

議会局「軍師」論のススメ
第3回 議員のやることは「ひとごと」なのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2016年6月号

ひとごと意識がもたらす弊害

 前号では、局職員が議員のことを「先生」と呼ぶ遠い距離感は、時として局職員の議会、議員に対する確信的「ひとごと意識」につながると述べた。そして、その「ひとごと意識」は実務上も、大きな弊害をもたらすことがある。

 政務活動費の使途が問題化した他議会で、その経緯を聞いたときのことである。やはり、説明する局職員が議員を「先生」と呼び、その内容からも明らかに議員との距離が遠かった。結果として不適切な支出に気づくのが遅れ、今さら改善を迫ることが難しい、という悪循環に陥ったと感じたのである。

 政務活動費制度は他の公金支出とは異なり、性善説的な制度設計がされている。立法論はともかく、現行制度を前提に適正運用を図ろうとするなら、議会局が議長権限を背景にチェック機関の役割を担うことは必須条件である。

 しかし、議員を「先生」と呼ぶ職員が、議員と対峙して本当に市民視点でのチェックができるのだろうか。少なくとも政務活動費の使途適正化に関して言えば、議員との遠い距離感はマイナス以外の何ものでもなく、それを保持しようとするのは、議員の行為に巻き込まれたくないという、確信に満ちた「ひとごと意識」のあらわれのようにも思える。

 その他にも、政務活動費問題で「ひとごと意識」を感じた例がある。ある議会の局職員がマスコミの取材に応じて「支出をどう考えるかは議員それぞれの問題。議会自身で新しいルールを考えてもらうしかない」と堂々とコメントしていたのである。

局職員も議事機関の一員

 たしかに局職員は議会の補助機関であり、議会の構成員ではない。しかし、仮に政務活動費問題を首長の交際費問題に置き換えた場合、秘書課職員が、「交際費の支出をどう考えるかは首長個人の問題。行政全体で新しいルールを考えてもらうしかない」などとひとごとのようなコメントをして許されるだろうか。局職員に広義での議事機関の一員であるとの意識がないから、このような「ひとごと」のようなコメントになるのではないか。

 大津市議会では政務活動費の支出ルールについて、議会運営委員会で私から改正案を提案説明し、真っ向から議論を挑んだことがある。

 もちろん、調整未了の議題を議会運営委員会にかけるのはスマートではない。しかし、非公式の事前調整ではどうしても全会派の合意が得られず、問題の先送りも危険だと感じていたところ、当時の竹内照夫議長の理解もあって公の場での議論が実現したのだった。

 そのような議論を局職員から仕掛けることに冷ややかな視線もあった。だが、それでも議会の信頼を守るために必要と判断したなら、最後は公の場でも議員と議論する覚悟が局職員にも必要だと考えている。

 局職員にとって政務活動費に関する業務は、どちらかというと担当業務の中でも付加的で負担感が伴うものである。しかし、議事運営や秘書業務の錯誤によって訴訟や刑事事件に発展することは稀であるが、政務活動費に関しては残念ながら〝日常茶飯事〞である。

 そして、問題が表面化して議会の信用が一瞬にして地に墜ちた例は、枚挙にいとまがない。むしろ議会の危機管理の観点からは、政務活動費関連業務こそ、他のどのような業務に優先してでも対処すべき仕事である、と局職員も認識を改める必要があるのではないだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
清水 克士(大津市議会局長)
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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