そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室

関根健夫

不安が原因の終わりのないクレーム【カスハラ対策】|クレーム対応悩み相談室12

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2025.06.02

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出典書籍:月刊「ガバナンス」創刊20周年記念別冊付録『そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室』
※本書は月刊「ガバナンス」2019 年4月号〜2020 年4月号までに掲載した連載をまとめたものです(一部加筆・修正)。

自治体職員のためのトラブルの対処法を学ぶ!カスハラ対応図書特集

Chapter12 不安が原因の終わりのないクレーム


2025年4月1日、東京都などで「カスタマーハラスメント(カスハラ)防止条例」が施行されました。
これにより、企業や自治体にも適切な対応策の整備が求められています。

本連載では、月刊『ガバナンス』の連載をまとめた別冊付録『そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室』の内容を引用して掲載。
人材教育コンサルタントの関根健夫さんが自治体でのクレーム対応術を解説しています。

今回は不安が原因の終わりのないクレームへの対応をご紹介します。
カスハラ・クレーム対応の参考としてチェックしてください!

この記事で分かること

・不安が原因の終わりのないクレーム事例
・不安が原因のクレームへの対応のポイント
・話し合う際の例文

新型コロナウイルスの感染が広がり始めた2020年春ごろの話です。保健衛生担当職員のKさんの自治体でも、医療保健面をはじめ学校の休校や施設利用の中止などさまざまな影響がありました。窓口ではこんな問題も起きていたようです。

人材教育
コンサルタント
関根さん

① 不安や心配に関することは説得しようとしない ② 同じ方向を向いて話し合うことが大切


終わりのない議論に

J 新型コロナウイルス対策に関してお客さまからはさまざまな問い合わせがありましたが、中には困ったものもありました。

関根 どんなことですか。

J 例えば「市内の店ではマスクが品切れだ。どこに行けば売っているか」などですね。

関根 確かにマスク着用が推奨されているのに、一時は品不足でほとんど入手困難になりましたからね。

J 気持ちは分かるのですが、マスクの品揃えなどの情報を役所は持っていません。それでも一部のお客さまは、役所は何でも知っていると思っていて、分からないと言うと「そんなことも分からないのか」「どこへ聞けば分かるのか」となるのです。

関根 それは困りますね。他にもありましたか。

J 職員には勤務中もできるだけマスクをさせていますが、「職員がしているのを市民に配布しろ」「職員だけがマスクをしているのはおかしい」などと言われることもありました。逆に、マスクをしていない職員には「全員にさせろ」とか、マスクをしている職員に対しても「症状が出ているのではないか」などと疑いの目を向ける人もいました。

関根 マスクの着用は、当初、接客マナーの観点からは失礼だという考え方もありましたが、その後、感染の拡大防止や職員の安全の確保の面からも当たり前になりましたね。

J ただ、組織としてどこまで強制力を伴うのかは微妙です。また、ウイルスに対する専門的な質問や意見になると、専門家ではないので答えようがないものもありました。
すると一部のお客さまは「不勉強だ」「対策が緩すぎる」「役所の中で感染したらどうするのだ」などと主張され、終わりのない議論になってしまったのです。

関根 そういったお客さまも、基本的に善意から言っていたのだと思います。ただ、「……たら」「……かも」といった主張には終わりがありません。すでに起きた事象については、なぜ起きたかを証明できる可能性はあるのですが、これから起きるかもしれないことを証明するのは不可能です。そのうえ「……たら」「……かも」は無限に設定できますから、その全てを説明することはできません。

不安な気持ちに寄り添う

J ではどこまで説明すればいいのでしょうか。

関根 役所には説明責任がありますから、ある程度のことは説明する必要があります。しかし、どんなことについても、無限に説明を続けなければいけないわけではありません。基本的には常識の範囲で、政府や県から出ている対策や情報を繰り返し伝えればいいと思います。

J でも、その説明では納得してくれません。

関根 そもそも不安や心配が背景にあるクレームは、何を説明しても納得しない人が多いのです。例えば季節性インフルエンザは、間接的なものを含めれば毎年数千人の方が亡くなっているといわれていますが、役所にクレームが集中するような話はあまり聞きません。一般的に初めてのこと、未知のことについて、私たちは過敏に反応しがちなのです。

J どうしたら良いでしょうか。

関根 不安や心配は感情の問題ですから、理屈ではなかなか片付きません。説明しようとするのではなく、むしろその不安な気持ちに寄り添ってあげたらどうでしょう。

  要するに「気持ちは分かります」ということですが、通り一遍の言い方では相手の気持ちも収まらないでしょうから、まずは逆質問を繰り返して話のペースをこちらがつかむのです。

J どのような質問ですか。

関根 例えば「お宅ではどういう対策をしていますか」などと聞いてみて、評価できる点は大いに賛同してあげるといいですね。「それを続けたらいいのではないですか」と言えば一応の方向性が出せます。「どんな点が一番心配ですか」などと具体的に聞いてみて、「こういう対策もあります」と展開すれば、別の面で一定の理解を引き出せるかもしれません。

J 説明、説得することばかり考えていましたが、より深く話を聞いてから答えればいいわけですね。

関根 ただ黙って聞くのではありません。大きくうなずいて相づちを打ち、時には質問して、その答えを評価してあげることで、相手もよく聞いてくれたと思うのではないでしょうか。

  こうしたやりとりはリスクに関するコミュニケーションですから、完全な対策はありません。お客さま側もそれを分かっているから不安という形で表明してくるのだと思います。問い合わせに対して直接説明、説得しようとせず、同じ方向を向いて話し合うことが大切でしょう。

J 分かりました。

 

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