月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊 ガバナンス 2024年7月号 特集1:包括的な居住支援と自治体 特集2:夏の暑さ対策 最前線

NEW地方自治

2024.06.27

●特集1 包括的な居住支援と自治体

超高齢化の進展や単身世帯の増加、人口減少による空き家の拡大などを背景に住宅セーフティネット制度が2017年に創設された。生活困窮者支援制度などとともに、高齢者や低額所得者、障害者など住宅の確保が必要な人に向けた支援が進められてきたが、民間賃貸住宅への入居のハードルの高さや入居前後の支援の必要性など課題も多い。今後、高齢単身世帯の増大が見込まれる中、こうした状況を踏まえ、住宅政策と福祉政策が連携した居住支援の強化を盛り込んだ住宅セーフティネット法等の改正が5月30日、衆議院で可決・成立した。これから自治体や地域にはどのような役割が求められるのか、この特集では考えたい。

■住宅セーフティネット法改正──住宅政策から居住政策へ

大月敏雄
東京大学教授

住宅セーフティネット法の改正は、これまでの住宅政策から一歩踏み込み、対象となる人々の居住ニーズのアセスメントから、住まい探し、入居支援、日常生活支援、死後事務までを見据えた「居住支援」を目指している。これは、ハードウェアに加えてソフトウェアが保証されることの必要性を表明したものである。

■地域共生社会の基盤としての包括的居住支──自治体は何をすべきか/高橋紘士
多様な依存状態にある者をそれぞれの制度に分断し保護するというモデルから、地域社会のなかで「ごちゃまぜ」型支援の仕組みを自治体が創出する必要が起こっている。これは、「居住」を地域包括ケアの議論で「住まいと住まい方」として整理した概念を包括的居住支援という従来の住宅政策と福祉政策を統合したコンセプトによる政策展開が求められているということを意味する。

■家族機能の社会化と包括的居住支援/奥田知志
これまでNPO法人抱樸(ほうぼく)では「ハウス(住居)」のみならず「ホーム(家族や他者との関係)」を失っている人の現実と向き合ってきた。その中で従来家族が担ってきた「機能」とは何かを考えさせられてきた。その最も基礎となる機能が「気づきとつなぎ」である。日常を共にしているからこそ変化に「気づく」ことができる。そして必要ならば制度に「つなぐ」。それが家族の第一の機能だと言える。

■断らない相談支援と居住支援/林 星一
居住支援の包括性という視座は、地域におけるさまざまな政策課題を明らかにするだけでなく、複雑化する課題に向き合い続ける自治体や職員のあり方にもヒントを与えてくれる。多様な主体といかに協働し、住民の福祉の増進を図っていくかが問われている。

■多様な連携で福祉と住宅をつなぐ~大牟田市の居住支援/牧嶋誠吾
住宅確保時までの住まいは「主役」だが、入居後は「脇役」に転じるものの、住宅という箱の中では、入居後に様々な問題が起きており、支援を必要としている人たちが存在する。市営住宅はまさに福祉の宝庫であり、福祉と住宅は切っても切れない関係にある。人口減少・縮退社会が進展する今日、住宅セーフティネットという土俵の中で民間賃貸住宅の空き家対策と公営住宅施策のあり方を考える時期に来ているように感じている。


〈Interview〉雄谷良成氏に聞く
■“ごちゃまぜ”の地域コミュニティと被災地の再生
居住支援で求められているのは、生活困窮者や独居高齢者などへの「福祉」と「住宅」の支援の連携だ。ここではより包括的な視点から、高齢者も子どもも障害がある人もない人もみんなが“ごちゃまぜ”で共生する地域コミュニティづくりを進める社会福祉法人「佛子園」理事長の雄谷良成さんに、これまでの取り組みとともに、能登半島地震からの復興における支援の進め方などについて話を聞いた。

 

●特集2 夏の暑さ対策 最前線

地球温暖化は、毎年の夏に厳しい暑さをもたらしています。気象庁は2023年の天候について、日本の年平均気温および日本近海の年平均海面水温が、いずれも統計開始以来最も高い値となったことを発表しました。年々過酷になる暑熱環境に対応し、健康で持続的な暮らしを叶えるためにできることは何でしょうか?今回の特集では、近年の異常高温のメカニズム、一歩進んだまちづくりとしての暑熱適応、高リスク層にフォーカスした熱中症対策など、〈最前線〉の内容を紹介。暑さへの対応を考えていきます。

■近年の夏の極端な暑さ、そのメカニズムと予測/小坂 優
■涼しいまちをデザインする──暑熱適応まちづくりのススメ/三坂育正
〈取材リポート〉
■プラットフォーム会議での声を活かして熱中症対策を推進/大阪府吹田市

 

キャリアサポート連載

■管理職って面白い!継続は力なり/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
人付き合いの極意 自分に色をつけず、人に差をつけない。/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/廣江理香 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■自治体職員なら知っておきたい!公務員の基礎知識/高嶋直人 ■今日から実践!すぐに役立つ!「公務員による研修」のススメ/佐藤光敏 ■カスタマーハラスメント対策Q&A/関根健夫 ■HOLG presents 本当にすごい公務員!のココだけの話 /中軽米真人 ■〈リレー連載〉Z世代ズム~つれづれに想うこと/青木悠太 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/宮本理華子 ■地域の“逸材”を探して/寺本英仁

 

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
菅原文仁・埼玉県戸田市長
防災対策なども充実し、“教育で選ばれるまち”へ

菅原文仁・埼玉県戸田市長(48)。子育て世帯などが移住し、人口増加を続けるまちの舵取りを担う。DX施策なども注目されているが、長年、水害に悩まされてきた地域の歴史を踏まえ、「治水は政治の基本」として現在、市中心部に雨水貯留管の建設を進めている。

 

取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
100年後に託したわずかな望み【「屋内退避」の真実・浪江町赤宇木】
原発事故、続く模索52

福島県浪江町の赤宇木。発災時は原発から20〜30㎞圏の「屋内退避」指示エリアだった。にもかかわらず帰還困難区域とされただけでなく、政府に「100年は帰れない」と言われるほど放射能に汚染された。どのような集落だったのか。せめて記録誌に残して、子孫の帰還に望みを託したい。前区長らが奔走し、全世帯の手記を掲載した約850ページにも及ぶ集落史が完成した。

□自治体政策最前線──地域からのイノベーション16
窓口+市民サービス改革──市民優先のサービス改革で市民の感動を生む市政をめざす(大阪府寝屋川市)

大阪府寝屋川市は、全国初の12時間開庁をはじめ、窓口専門職員と可変型窓口の導入などで市民を「動かさない」「待たせない」窓口サービスを実現。また、庁内横断チームで市民サービスを検証し、「市民に伝わる」文書作成の基本ルールを策定した。引き続き市民サービス改革に努め、「市民の心を動かす」サービス提供で市民満足度を高めるとともに、競争優位の政策で市内外から「選ばれるまち」「評価される市役所」をめざしている。

 

●Governance Focus
□孤立した「旧町」に目は届いているか──能登半島地震、石川県輪島市「町野町」の苦境/葉上太郎
石川県輪島市の町野町。市役所から約20㎞離れた昭和合併の地区だ。合併の経緯や、距離的なハンディから、地域の劣化が進んでいたところで、能登半島地震に襲われた。被害は極めて甚大で、9割の建物が倒壊した地区もある。なのに、道路が寸断されるなどして、なかなか手が届かない。今もあの日のままのような惨状が広がっている。そうした深刻さに比べて報道は少なく、住民の心を諦めが浸食し始めている。

●Governance Topics
□デジタル技術を活用した住民参加型の施策立案・運営支援ツールを開発──日立京大ラボと京都大学の取り組み
日本国内では少子高齢化に伴い、地方の行政や労働の担い手不足への対応が大きな社会課題となっている。京都大学と日立製作所が設立した日立京大ラボが開発しているデジタル協同プラットフォームは、東京一極集中や資本主義経済のオルタナティブとして、またはGAFAのようなデジタル覇権主義ではなく、地域コミュニティの中に埋めこまれた共生的なプラットフォームをめざしている。

□多角的な視点から「個性と魅力ある自治体づくり」を議論──第16回日本自治創造学会研究大会
地方議会議員を中心に、首長や職員、研究者などが地域に根ざした実践的な研究や交流を行っている日本自治創造学会は5月30・31日の2日間、東京で第16回研究大会を開催した。今回のテーマは「個性と魅力ある自治体づくりに挑戦する」。学識者らによる講演を中心に、参加者とも意見交換しながら知見を深めた。

□チーム議会で政策サイクルを回す──「政策サイクル推進地方議会フォーラム」公開セミナー
(公財)日本生産性本部「政策サイクル推進地方議会フォーラム」は、5月25日に「『地方議会からの政策サイクル』と成熟度評価モデル~その現在・過去・ミライ~」と題し、公開セミナー(報告会)を開催した。日ごろから政策サイクルを実践する議会による報告のほか、同フォーラムの議会(事務)局分科会による提言(公表は4月15日)についても議論された。分科会で議論をした江藤俊昭・大正大学教授と清水克士・前大津市議会局長に提言について話を聞いた。

□「自治体消滅時代」の家族・雇用・福祉の姿を探る──「脱分断社会と新しいつながりのかたち研究会」公開研究会(中央大学法学部・全労済協会)
(一財)全国勤労者福祉・共済振興協会(全労済協会)が2023年に立ち上げた「脱分断社会と新しいつながりのかたち研究会」の公開研究会が、中央大学法学部・全労済協会共創企画として、6月7日に都内の同学部キャンパスで開催された。

 

連載

□交差点~国×地方/人羅 格 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/津軽石昭彦(関東学院大学地域創生実践研究所) □地域経済再生の現場から~Bizモデルの中小企業支援/小杉一人(ココビズ) □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □地方議会シンカ論/中村 健 □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える
『あんのこと』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆]

 

カラーグラビア

□つぶやく地図/芥川 仁
歴史とつながるらっきょう作り──福井県坂井市三国町米納津

□技の手ざわり/大西暢夫
手作りにこだわる燻し銀の京瓦──【いぶし瓦製造】浅田製瓦工場・淺田晶久さん(京都市伏見区)

□わがまちDiary──風景・人・暮らし
小さな島に詰まった、尽きることのない魅力(鹿児島県与論町)

□本日開園中 FUN!FUN!動物園
愛媛県立とべ動物園(愛媛県砥部町)

□クローズアップ
福井地震で壊滅した城を人々が再建する──福井県坂井市、今だからこそ知りたい丸岡城

 

■DATA・BANK2024 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!

※百合ヶ浜(鹿児島県与論町提供)

 

お詫びと訂正

2024年7月号36頁・特集2の記事中、誤りがありました。お詫びの上、訂正いたします。
〇36頁・1段目・前から8行目(「死亡者数も」に続く人数)
(誤)5000人→(正)1500人

 

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「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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