知っておきたい危機管理術/木村 栄宏

木村栄宏

危機管理術 新型コロナの危機対応―台湾の事例から考える

地方自治

2020.08.07

知っておきたい危機管理術 第50回 新型コロナの危機対応―台湾の事例から考える
千葉科学大学危機管理学部 木村 栄宏

『地方財務』2020年6月号

 新型コロナ感染拡大により、リーマンショックを上回る世界経済危機が見込まれ、感染地域は2020年第1四半期の軒並みマイナス成長に陥る中、2020年4月30日、台湾行政院は2020年第1四半期のGDP見積もり(「経済成長率」)を+1.54%、2020年の年間では+2.37%と発表した。また、世界最大級の半導体ファウンドリーである台湾のTSMC社は、同じく2020年第1四半期で対前年同期比42.0%の増収を4月16日に発表している。一方、5月8日現在で感染者数は440人、死亡者6人と低い数字に抑えられており、台湾は新型コロナ感染対応の優等生として評価されている。現時点では、まさに当面の命の危機、経済の危機への対応がうまくいっており、この台湾の事例をもとに危機対応のあり方を改めて考える。

① 過去の経験を活かし、危機を予見

 台湾では2003年SARS流行時に中国・香港に次ぐ死亡者が生じ、被害地域の中で感染終息は最後になった。その教訓から、危険性の高い伝染病発生時を想定し、法的担保(国民への強制力)を規定(2003年)すると共に、組織(衛生福利部疾病管制署)の拡充や国家衛生指揮中心を立ち上げ(2004年)、防疫有事への即応体制を準備した。

② 情報に対する分析と把握力の強化、初動・早期対応

 政治的事情がありWHOやIMF等の国際組織に加盟できていない台湾では、正確な情報に対する掌握力を強めていた。2019年12月31日時点で既に、武漢市衛生健康委員会が12月30日に出した緊急通知を入手し報道、同日、WHOにも情報提供・連絡、及び武漢と台湾間直行便乗客に対し機内検疫実施開始、正月明けの1月5日には政府による専門家会議設置、1月22日にはまだ武漢市が封鎖されていない段階で武漢との間での団体旅行禁止、1月24日には医療用マスクの輸出禁止等、相当なスピードで先手対応している。

 マスク生産では、政府資金2億台湾ドル(約7億円)が2月22日に投じられてマスク生産設備60基導入、普段は競合にある台湾工作機械業界が一致団結し「マスク国家隊」を結成、当初半年間かかると言われた生産量を40日間で達成、3月中旬には1日1000万枚を製造した。いち早く海外へ行きマスク製造工作機械を調達したことが背景にあり、早期対応の迅速性を表している。

③ 適切な組織と人材の配置(平時からの準備)

 専門家が政権内で陣頭指揮をしており、国民に対して安心と信頼を与えているため、人々もリーダーたちについていき、社会が混乱しないで済む。例えば、副総統(陳建仁氏)は公衆衛生での博士号(米国Johns Hopkins大学)、行政院副院長(陳其邁氏)も台湾大学医学部で公衆衛生修士号取得医師であり、マスク・防護服など政府による製造・販売・在庫の一元管理や入国情報と国民のID等のデータ統合、アプリ開発を数日で行った、行政院政務委員(デジタル担当大臣)に35歳で就任している唐鳳氏は、中学校中退後19歳でソフトウェア企業を米国で起業、IQ180以上とも言われる専門家だ。新型コロナのような危機がいつ生じても対応できる布陣となっていた。

④ クライシス・コミュニケーションを理解し適切に対応

 リスク認知は「未知のリスク」「既知のリスク」「怖い」「怖くない」の4象限で表されるが、新型コロナの登場は、まさに「未知」「怖い」にあたるものだった。一方、「パニックになる条件」は、

a危険が切迫している
b脅威そのものを制御することが不可能
c外部からの援助を当てにできない
dすぐに何かの行動を起こすことによって危険を回避することができる

の4つだが、いつパニックになっても不思議でなく、更に〝直近のことになると人はせっかちになり待てない〟という「現在バイアス」が生じがちな状況の中で、台湾では日々の情報公開で適切なクライシス・コミュニケーションを行ってきた。9・11の際に当時のNY市長が「情報のないこと自体が貴重な情報である」として2時間毎に定時記者会見を続けたが、陳時中氏(衛生福利部大臣兼中央感染症指揮センターの指揮官)はホットライン24時間体制やLine等の駆使、日々最新の感染や管理状況を記者会見で公表している。2月4日に武漢へのチャーター便が前日漸く飛んだものの1名感染者が出てしまったことで思わず涙を流し、その真摯な姿を見た台湾の人々は一層皆で団結してこの危機に立ち向かう、という一体感が生じた。

 この台湾の事例や米国元副大統領ゴア氏がノーベル平和賞受賞時に述べた「英語のcrisisは漢字で『危険』と『チャンス』の意味だ」が示すことを、今こそ我々は肝に銘じる時だと考える。

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千葉科学大学危機管理学部教授

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