政策トレンドをよむ 第14回 多文化共生政策の評価を考える ― 意識啓発・醸成編
地方自治
2024.06.07
目次
※2024年4月時点の内容です。
政策トレンドをよむ 第14回
多文化共生政策の評価を考える ― 意識啓発・醸成編
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
北海道大学公共政策学研究センター研究員
森川 岳大
(『月刊 地方財務』2024年5月号)
多くの自治体で多文化共生に向けた取り組みを行っているが、各取り組みの効果をどのように評価するかは重要な問題だ。自治体が実施する多文化共生推進事業には、外国人向けの相談窓口や日本語教室、地域住民や企業に対する意識啓発など様々な種類があり、事業の特徴に応じて着目すべき評価の視点も変わる。また、既存の政策評価関連の参考資料では、コストを度外視した難解で高度な分析テクニックの説明に終始しているケースも多く、多忙な自治体職員にとって評価は敷居が高いと感じるのが現実だろう。前号では外国人相談窓口の評価のポイントを整理したが、本稿では多文化共生の意識啓発・醸成に関する取り組みに着目し、現場の担当職員が現行業務の課題や改善策を検討する際に役立つ視点を紹介したい。
多文化共生の意識啓発・醸成に関する取り組みには様々な種類があるが、図表1に示すように、外国人住民や企業・地域住民等に対する各種情報の周知・理解促進、外国人住民と地域住民が相互に交流する場づくりやイベントの開催などを行うのが一般的だ。
外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議で決定された「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」では、共生社会の実現に向けた意識醸成や社会制度等の知識習得、外国人の社会参加などが重要項目として掲げられ、令和2年度には「地域に出向いて行う生活オリエンテーション等の実施に要する経費」に関する特別交付税措置(市町村分)も行われた。総務省の「多文化共生事例集」や、内閣官房の「地方公共団体の地方創生に資する外国人材受入支援・共生支援に係る施策の推進等に関する調査報告書」においても、外国人住民と日本人住民の交流イベント等の先進事例が示され、意識啓発・醸成活動の更なる展開が期待されるところである。
このように、多文化共生の意識啓発・醸成に向けた環境整備が着々と進む一方、実施する取り組みの効果や課題、改善点を評価・分析するためのノウハウ・ナレッジはほとんど蓄積されていない状況だ。イベントへの参加者数や、周知した情報へのアクセス数のみを確認するようなケースも多く、現場の担当職員としては、「参加者数は多いが本当に効果を上げているのか」「アクセス数は少ないが本当に必要とされていないのか」「何をすればより良くできるか」といった疑問を持つことも多いだろう。
意識啓発・醸成に関する取り組みは、発信した情報を外国人や地域住民、企業等が受容し、その認識や行動に変化を及ぼすことで初めて効果が発現する。そのため、参加者数やアクセス数の大小のみで評価をするのは適切ではなく、図表2のように、対象者が情報を受容し、受容者の認識・行動が変化するまでの一連の流れの中で、どこに課題があるのかを探索するのが理想的だ。
上記のように①~③の想定されるボトルネックを意識することで、より精度が高い改善策を検討できる。受容から一定期間経過後の理解度や行動の変化状況等、定量的に把握する難易度が高い指標もあるが、可能な範囲で対象者やその関係者に話を伺い、定性的な状況把握により考察してみるのも十分効果的だろう。
本稿に記載の内容は、あくまでも現場の担当職員が現行業務のボトルネックや改善策を検討する際に役立つ視点として整理しており、既存の手段ありきの発想になりがちであることに留意が必要である。一方、現行業務への洞察を深めるためには必須の視点だ。多文化共生の意識啓発・醸成に向けて日々模索する方々に、本稿がその一助となれば幸いである。
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