マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会
第7回 カフェ発 自治体だとダメだけど、ゲームだとOK? プライバシーに関する感覚の難しさ
ICT
2019.04.26
第7回 カフェ発 マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会
カフェデラクレでの出来事
自治体だとダメだけど、ゲームだとOK? プライバシーに関する感覚の難しさ
ゲームによっては位置情報提供の同意が必要
ある日の午後、都内文田区にあるカフェデラクレ(Café de la clé)。大学の講義が終わる時間帯である。
カランカラン♪
「いらっしゃいませ」
加藤が入り口に目を向けると、時々くるお婆さん、里中が現れた。お店の奥のいつものスペースには竹見が座っていた。里中や竹見はこのカフェデラクレの常連で、よく顔をあわせる。
「マスター、コーヒー頂戴。竹見先生、こんにちは」
「あぁ、里中さん、こんにちは」
竹見は読んでいた本から顔をあげて、にっこり笑って挨拶した。
「里中さん、いつもどうも」
マスターは、コーヒーサーバにネルをセットすると、コーヒーの粉が入っているドロップポットに手をかけた。里中はいつも通りカウンターに座り、隣の席にバッグを置きマスターに向かって言った。
「孫がね、最近はやっているゲームの話ばっかりするの。ほら、カプモンGOとかいうやつ。私もやってみたいんだけど、難しいのかしら」
「里中さん、いらっしゃいませ」
裏から出てきた大学生アルバイトの絵美が挨拶した。
「絵美ちゃん、カプモンGOってやったことある?」
カウンター内にあるシンクで手を洗っている絵美に声をかけた。
「もちろん、今、周りはみんなやってますよ。大学の構内に珍しいモンスターが出るらしく、小学生とかも来てますよ」
絵美は手早く手を洗うと、横にあるグラスに水をいれ、里中の前においた。
「やっぱりね。公園に人が沢山集まっているニュースも見たわ。今更遅いかもしれないけど、私も始めてみようかしら」
里中は、バックからスマートフォンを出しながら、つぶやいた。
「相変わらず若いですねぇ。お孫さんとゲームですか」
加藤が良い匂い漂うコーヒーの入ったカップを里中の前に置きながら言った。
「とりあえず、ゲームを始めたいんだけど、どうしたらいいの?」と、里中はスマートフォンを絵美に差し出しながら尋ねた。
「簡単ですよ。アカウント設定さえすればOKです。そういえば、以前里中さんのメール設定、私がしましたよね。それを使ってよければ、簡単に設定できますけど」
「ということは、この前のメモ書きが必要ね。確か手帳に書き写したはず。ちょっとまって」
里中は鞄から手帳を出すと、指でページをめくり、「あ、これだ」と言いながら開いたままの手帳を絵美に差し出した。
「マスター、いいですか?」
絵美はこういうリクエストがあると、必ず雇い主の加藤に許しを得てから手伝いを始めることにしている。加藤が笑顔でうなずくのを確認した絵美は、里中から手帳とスマートフォンを受け取ると、慣れた手つきで、赤いスマートフォンをフリックし、設定を始めた。
「里中さん、このゲームでは位置情報やアカウントの情報を使うみたいです。一応自分で同意した方がよいと思うので、この同意ボタン、押してもらえませんか?」
「もちろん」
里中は、すぐにゲームを始めたい一心で、絵美の話をろくに聞きもせずに、自分のスマートフォンを受け取ると、すぐに同意のタップをした。
「どうやれば、ゲームができるの?」
「近くにモンスターがいたら、この画面、ほら、ここ。ここを押して下さい。そうすると、目の前にモンスターがいるように見えるんです」
里中がたどたどしい手つきで画面をタップすると、画面が変わったのか、急にうれしそうな笑顔になった。
「あら、ホント。まるでマスターの横にモンスターがいるように見えるわね」
「はい、自分のいる位置に応じてモンスターが出現するようになっています。是非色々なところで試してみて下さい」
他にも絵美が色々な機能について説明すると、里中はうれしそうにゲームの新しい機能を試していた。