『空気のつくり方』(池田 純/著)から学ぶ「楽しい空気」のつくり方
キャリア
2019.12.02
目次
第8回 新年度スタート 新しい空気をつくる
4月になって「年度が替わる」ということは、役所にとって非常に大きな意味を持ちます。
新入職員がまとめて入ってくるのは企業でも同じかもしれませんが、役所の場合、人事異動もこの時期に集中して行われます。多くの条例や規則も4月1日付で施行されますし、何より4月から新年度予算が始まります。4月は、多くのことが一旦クリアされ、新しいことが始まる時期なのです。
あまりに年度の縛りが強すぎることが行政の柔軟性を奪っているとして、これを何とかするべき、との議論も以前から行われていますが、今のところ大きな変化はありません。確かに、年度にこだわり過ぎることには弊害も少なくないと思いますが、新しく何かをしたいと思う人にとっては、チャンスと考えることもできそうです。
年度が替われば、人も替わり、予算もゼロからスタートします。このタイミングをとらえて、それまでやりたくてもできなかったことができるようになるかもしれません。財政課から何か仕掛けるとしても、この時期が一番やりやすく、わかりやすいでしょう。逆に、ここを逃してしまうと、何かを変えようとしても、ちょっとハードルが高くなるかもしれません。
もちろん、年度が替わったからといって、なんでも通るかというとそんなことはありません。新しい取組をするためには、そのための機運を高めることが大切になります。多くの人が、「そうしてもいいな」と自然に思えるムードを作っていくことが、何かを変えていくうえでとても大切なのです。
そこで今回ご紹介する本は、池田純さん著の『空気のつくり方』です。
池田さんは、2011年、35歳の若さでプロ野球横浜DeNAベイスターズの初代代表取締役社長になられた方です。閑古鳥が鳴いていた横浜スタジアムの風景をがらりと変え、年間110万人だった観客動員を、5年間で194万人にまで増やすという劇的な成果を挙げられました。そんなことが可能になったのも、池田さんの言葉を借りれば、そうなる「空気をつくった」からだそうです。
新年度から何かをいろいろ変えていきたいと思っている人や、4月から心機一転やり直していきたいと思っている人にとって、池田さんが実践された「空気のつくり方」が大いに参考になるのではないでしょうか。
学びポイントその1 「共感可能な何か」を提示する
何かを変える、新しい何かを始める、と言われても、周りの人には今一つピンと来ないかもしれません。池田さんは、横浜という町の人たちやベイスターズのファンに思いを伝えていくため、「共感可能なもの」を提示するように努めたそうです。これなしに一方通行で物事を進めても、一体感の醸成にはつながらなかったでしょう。
役所の中で、財政課の主張は、かなりのバイアスを持って受け取られます。
「どうせ、予算を削りたいだけでしょ」
「お金がないっていうのは聞き飽きたよ」
という感じでしょうか。
立場上、財政課が役所の財布のひもを締める役回りをせざるを得ないのはわかりますが、押し付けているだけでは空気は変わりません。例えば予算編成の進め方を変えたいと考え、それに各所属の協力を促したいとするのなら、なぜそうしたいと思うのか、そうしなければならないのか、しっかり示す必要があります。
各所属が財政課の伝えるストーリーに共感し、自分事としてくれたら、何ものにも代えがたい大きな援軍を得ることができます。
学びポイントその2 空気をつくる主体である 組織に、戦う空気をつくる
空気をつかみ、それを自分のものとして引き込んでいくためには、その主体となる「組織」が重要になります。
池田さんは、いい空気に満ち溢れ、一丸となって戦う組織ができてはじめて、外に向けてホンモノの空気をつくり出していけると言います。そのために、職員一人一人とじっくり時間をかけて話し合い、仕事を進める基準や理念を共有したそうです。
つまり、財政課が役所の空気を変えたいと思うなら、まず課内に戦う空気をつくらなければならないということになります。戦う、といっても他の所属をとっちめるわけではありません。困難に立ち向かい、目標達成に向けて突き進む気持ちを持つということです。
多くの市町村で、財政課の職員は十人程度でしょう。思いを共有するためにはちょうどいい数だと思います。新年度、まずは、課内の空気をつくりましょう。
学びポイントその3 閉ざさず「開く」
多くの自治体で、財政課は胡散臭い目で見られているのではないのではないかと思います。それは、情報を出し惜しみしているからではないでしょうか。
古くは、施政者の心得として「由らしむべし知らしむべからず」ということが言われた時代がありました。これに倣ってか、財政課も、自らに都合の悪いことは知らせないままに、やってほしいことだけを伝えてきてはいなかったでしょうか。
池田さんは、「これからは『閉ざす』時代ではなく『開く』時代である」としています。それを実践するために、球団からの思いを伝えることで地域やファンとの精神的距離を縮めるとともに、横浜スタジアムの壁をぶち抜いて、物理的な距離も無くそうと試みています。
今までと違う空気をつくるためには、財政課も「開く」必要があるでしょう。持っている情報をどんどん開示していくとともに、胸襟も開きましょう。いつでも受け入れてもらえるとわかったら、所管課もどんどん相談に来ると思います。そして、本当の姿をわかってもらえたら、こちらからのお願いにも喜んで協力してくれるのではないでしょうか。
学びポイントその4 楽しい空気をつくる
商社や広告代理店などを経て球団社長となられた池田さんは、数字に非常に厳しい方のようです。徹底した効果測定とPDCAにより、「数値化しないことはない」とまでおっしゃっています。
一方、ビジネスは数字だけではない、ともされています。数字だけでは夢もなければ楽しくもないとし、社員がその会社で働けることに充足感を抱き、周りの人たちからも楽しい気持ちを感じてもらえれば最高だとおっしゃいます。
空気をつくるのは、簡単ではないでしょう。苦労しているうちに組織がよどんでしまうこともあるかもしれません。しかし、空気をつくろうとしている組織が楽しんでいなければ、それはきっと伝わってしまいます。
辛いとき、苦しいときこそ前を向いて。
楽しい気持ちがいい仕事を生み、いい仕事がさらに楽しい気持ちを生み、それが周りに広がっていく。それこそが、空気をつくる、ということかもしれません。
【今月の本】
『空気のつくり方』池田 純/著
(幻冬舎、2016年、定価:1,400円+税)