【クレーム対応術】激高する住民への自治体職員の窓口対応・予防策とは?
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2025.02.25
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本記事では、「窓口での市民の激高、暴力・傷害事件」への対応と予防策を抜粋してご紹介します。
窓口対応─市民からの暴力・傷害事件
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① 激高する住民にどのように対応できるか。
② 予兆はあるのか。
③ 予防策はあるのか。
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私は、A市において生活保護担当の職員をしております。
市民Xさんについては、生活保護について相談を受けているところですが、Xさんから申請に必要な書類が出てきません。本日も生活保護の窓口に来られ、「すぐに生活保護手続をしろ」と怒鳴りはじめました。
「必要書類をそろえて記載してください。」と申し上げたら、カウンターを越え事務室に侵入し「わからないのか、バカヤロー。」と突然当市の職員を切りつけました。突然のことで、とても阻止はできませんでしたが、切りつけられた職員は幸いにも軽傷でした。
本市では最近生活保護の窓口にかぎらず、戸籍謄本交付の住民課市民税課の窓口で、市民が突然激高し、事務室に乱入し傷害を与える事件が続いています。どうしたらよいのでしょうか。
激高する住民への対応
警察庁の調査では、一方的な不満や恨みから地方公共団体の職員が狙われる「事件」が後を絶たず、その数が2022年だけで約400件に上り、この5年間で約5倍に増えたとの報告がなされています。その原因については様々な意見がありますが、「不満のはけ口として、身近な市役所等が狙われる」「コロナ禍や不況で困っている人が助けを求めた役所の対応に不満を抱き、その怒りを職員に向けた」とも言われています。
いずれにしても職員に対する暴力には警察に被害届を出す、告訴告発する等厳正な対応が必要ですし、組織として予めこのような事態に対してどのような対応をすべきかマニュアル等を整備し、事案について組織的対応が必要とされます。
本事例と同様の事件は、2013年、2019年神戸市において生活保護の窓口に職員が刃物で切りつけられた他、2022年名古屋市において生活保護を担当する職員に対して突然背中と脚など数か所を包丁で切りつけた事件(殺人未遂懲役8年6か月の判決)が発生しています。
予兆はあるか
Xさんは被害にあった職員に対して突然切りつけています。「不満は募らせていたが、格別担当課、職員とのトラブルはない」と述べています。
予防策の是非
このような背景もなく、かつ、さしたるトラブルがないにもかかわらず凶行に及ぶ人物に対して、いかに対応するか、現場での対応策を考えてみます。
(上記写真撮影対象は事件とは無関係・一般的な受付窓口として紹介)
◆窓口の検討
①受付のカウンターについてはファイル入れ等「物」が多い。職員に対し投げつけられる可能性がある。→除去の必要
②写真ではわかりにくいが、アクリル板がカウンター上に設置されていることは評価できる。しかしながら、加害者がカウンターを乗り越えて職員に対して暴行を加える可能性を減殺させるためにも、アクリル板を固定すべきである。
③問題は加害者に執務室内部に侵入されることである。写真からは職員の出入り口は、写真左下にあるドア一つである。もし刃物を持った加害者が執務室に侵入すれば職員は逃げ場がなくなる。かといって、ドアを構造的に高くし頑丈にすることは、親しみやすい相談窓口としての市役所現場の価値を損ない、市民に対してサービスにも影響があると考える。そこでドア裏側・執務室側に「鍵」を設置し、施錠・解錠を職員で行うことを推奨する。
以上、まず物理的な現場において、凶行に及ばない職場環境づくりが必要ですが、意外と軽視されがちなのが、従前暴言・脅迫的言辞・暴行があったにもかかわらず、放置したことによる被害の拡大です。次の事例は、暴力を見逃すことによりいずれも大きな被害をもたらした例です。