議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第50回 議事機関の本質に適う広聴活動とは何か?

地方自治

2021.06.03

議会局「軍師」論のススメ2020
第50回 議事機関の本質に適う広聴活動とは何か? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2020年5月号

 先月号では、議会の世界を俯瞰すると、違和感を覚えることがあると述べたが、それは重要な改革の動機となり得る。

 今月号では議会広聴の常識に関して、私自身が覚えてきた違和感への対案とも言える、大津市議会独自の広聴制度について述べたい。

■議会広聴に関する違和感

 議員は選挙で住民の代表として選ばれた存在ではあるが、当選によって全てを白紙委任されたわけではない。市政課題ごとに住民意見を施策に反映させるためには、議会への住民参加は必須要件であろう。

 だが、本来的な議会活動である本会議や委員会審議とは無関係に、議会報告会(住民との意見交換を主旨とするものを総称)を行うこと自体が議会の広聴活動との考えには違和感を覚えてきた。

 もちろん一つの手法として否定はしないが、テーマが必ずしも議案等の重要課題ではなく、公式会議録が残されない手法が、議事機関の広聴活動として最優先されるものとは思えないからだ。

■独自制度検討に至った経緯

 大津市議会では令和元年9月議会で、公民館をコミュニティーセンターに順次移行させることを主旨とする、コミュニティーセンター条例案が審議された。その際に地方自治法(以下「法」)115条の2に規定する公聴会(以下「法定公聴会」)開催が検討されたが見送られた。

 法定公聴会の開催対象は議案、請願等とされているため、上程されてからでなければ開催の公示はできない。公述人の公募期間を確保すると、通常の会期日程で採決まで終えることは、事実上困難だからである(詳細は20年3月号参照)。

■「市政課題広聴会」の概要と未来

 その課題に対処し、法定公聴会と同様の目的を達するために、大津市議会では議案上程前に市政の重要課題に関して、議場等で市民意見を聴取し公式会議録に残す「市政課題広聴会」制度を4月に創設した。

 法定公聴会の課題は、前述の会期日程との整合のほか、議案上程された段階で初めて一般市民に意見を求めても、議案審議に反映させるには事実上遅過ぎるというところにもある。市政の重要課題は突然、議案上程されることなどなく、それまでに利害関係者間で非公式に調整され、方向性が事実上決まることも多いからだ。

 また、重要課題の全てが議案になるとは限らないことも、法定公聴会の制度設計上の課題である。

 したがって、法定公聴会では対象が議案、請願等に限定されているが、「市政課題広聴会」では、議案上程が予想される課題はもちろん、それ以外の重要課題も対象とした。

 それは、議案上程の有無にかかわらず、重要課題に対する市民意見を、公式会議録に残すことが、議会としては重要だと考えたからである。昨今の公文書管理に対する問題意識と同じく、住民代表機関が市政課題に関与するなら、議員と執行機関の発言だけではなく、市民意見も公文書として保存される会議録で、後日確認できるようにすべきである。

 そのためには「市政課題広聴会」を議会公務とする必要があり、法100条12項の「協議等の場」に位置付けることとした。

 今後は、議事機関の本質に適う広聴制度としてはもちろんのこと、立法機関としての政策形成過程における広聴制度としても定着するよう、局職員の立場から尽力していきたい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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