アンコール王朝の“繁栄”を支えた
「水利都市」システムを解明
なぜ、アンコール王朝がアンコール・ワットなど石造大伽藍を建立できたのか?
歴史の疑問に応えて1979年にフランス極東学院のベルナール・フィリップ・グロリエが「水利都市」論を発表した(本書第3章に訳稿収載)。その後、世界で賛否の大論争が続いてきた。
本書では、アンコール王朝の「水利都市」の成り立ちとその社会的・経済的背景を詳解。さらに、グロリエの2本の論文により、歴史・地理・宗教の背景説明を補強し、同時に盟友のG・コンドミナス論文とJ・デュマルセイ論文で手堅く脇を固めた。
また、長年にわたるフランス極東学院の地道な現地調査と、国際協力機構(JICA)作成の5000分の1の地形図データやアメリカ航空宇宙局(NASA)による高解像度機器調査、さらにNHKによる水利都市映像化番組「水の帝国アンコール・ワット」(1997年放映)の協力を得て、グロリエの「水利都市論」をここに立証する。
目 次
第1章 なぜ私たちはB・P・グロリエの「水利都市」論を議論するのか?
―碑刻文史料の限界を乗り越えて―
石澤 良昭 第2章 アンコール王朝の繁栄を裏付ける約800年前の田越し灌漑の発見
―JICA・NHK・上智大学の国際調査活動―
石澤 良昭 第3章 アンコール王朝の水利都市
—開発か、それとも乱開発か?―
ベルナール・フィリップ・グロリエ 第4章 歴史地理学から見たカンボジア
ベルナール・フィリップ・グロリエ 第5章 アンコール王朝の農業と宗教
ベルナール・フィリップ・グロリエ 第6章 考古学者ベルナール=フィリップ・グロリエの人類学理論への主要な貢献
―「水利都市」の概念とは―
ジョルジュ・コンドミナス 第7章 クメール方式貯水池の歴史展開
ジャック・デュマルセイ 第8章 アンコール帝国・興隆衰亡の自然地理的背景
―JICA地形図判読による新知見から―
江川 良武
あとがき
もう一人のグロリエ ―父子二代が挑戦したアンコール王朝史解明物語―
石澤 良昭
著者紹介
石澤良昭(いしざわ・よしあき)
1961年上智大学外国語学部卒。文学博士(中央大学)。専攻:東南アジア史(特にアンコール王朝史、クメール語碑刻学研究)。現在、上智大学教授、上智大学アジア人材養成研究センター所長(特任)、上智大学アンコール遺跡国際調査団団長。第13代上智大学学長(2005~2011年)。これまでに文化庁の文化審議会会長、外務省・文部科学省共管「文化遺産国際協力コンソーシアム」会長などを歴任。2003年独立行政法人国際交流基金から「国際交流基金賞」受賞。2017年カンボジアのアンコール遺跡の保存修復および人材養成への貢献により国際賞「ラモン・マグサイサイ賞」を受賞。2018年にはカンボジア王国ノロドム・シハモニ国王から「モニサラポン勲章」受章。2022年王立プノンペン大学より「名誉博士号」が授与された。著書多数。
ベルナール・フィリップ・グロリエ
1926年カンボジア生まれのフランス人。父子2代にわたり、カンボジアの歴史と文化に強い関心を寄せ、フランス極東学院の保存修復活動に協力。1690年、カンボジア王国政府文化省アンコール保存局長に就任。世界的に有名なアンコール遺跡研究・考古学者。