南三陸町 屋上の円陣 ―防災対策庁舎からの無言の教訓―

「きっと守り抜く」 宮城県南三陸町の防災対策庁舎の屋上で円陣を組み、必死に津波に耐えようとしている人たちがいた。 そこには、強い決意で女性、高齢者、若い職員たちを円陣の内側に入れ、生死の瀬戸際にありながら、最後まで人間の尊厳と誇りを失っていない姿があった…。 「その時、何が起こっていたのか」今だからこそ明らかにできる防災・危機管理アドバイザー山村武彦による渾身のノンフィクション。


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5第1章勇者たち付けられた町長を含む職員8人。屋上から流されながらも助かったのは、運よく水面に浮き上がり畳に乗って志津川病院に漂着した町民税務課の職員1人だけである。防災対策庁舎(以下、防災庁舎)の屋上に避難した人は54人。そのうち43人が死亡または行方不明になっている。奇跡的に助かったのは11人。円陣の写真を見て衝撃を受けた。そこには震災前に防災庁舎でお会いした阿部慶一危機管理課長の姿があった。阿部課長はヘルメットも被らず、みんなを抱きかかえているように見える。阿部課長の口癖は、「住民たちの命を守ること、安全安心・まちづくりが自分の仕事」だったという。奥さんの代子さんは、写真を見て、「最後まで使命を全うしようとしていた主人は家族の誇り」と気丈に振舞いつつ目頭を押さえた。広い背中を見せながら両手を大きく広げ、体を張って住民や若い職員たちを守ろうとしているのが議会事務局長の熊谷良雄さん。奥さんのさよ子さんは、「町と町民のために役立つことこそ男のロマン、いざという時は自分のことはあきらめてくれ」と言っていた夫の言葉を今になって思い出すという。


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