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4きなかった。町長も「徳さん……」と言ったきり絶句する。みんなあっという間の出来事で、すべてが悪夢だった。こんな理不尽なことがあっていいはずがない、何かの間違いか夢であってほしい。しかし、過酷な現実はまだ終わっていなかった。津波はあとから来るほうが大きくなる。今度は自分たちが流されるかもしれない。しかし、逃げ場もなければ考える余裕もなかった。「来るぞ!」「手を離すな!」誰かが叫ぶ。組んだ腕、つないだ手に力をこめて円陣を引き締める。「波に背中を向けろ」その直後だった。水の塊が押し寄せ、防災対策庁舎がのみ込まれた。突き出たポール2本を残し黒いうねりが防災対策庁舎を沈めた。ゴーっという音と共に強烈な水圧が波状的に襲ってきた。漂流物の浮き球、ロープ、木片などがぶつかる。離れた高台からファインダー越しに見ていたカメラマンがいた。直後に見えたのはポールとそこにしがみついている人以外、重たげに幾重にも波打つ黒い水だけだった。屋上にいて助かったのはポールに登っていた2人と、階段上部の踊り場付近に流され鉄柵に押し