南三陸町 屋上の円陣 ―防災対策庁舎からの無言の教訓―

「きっと守り抜く」 宮城県南三陸町の防災対策庁舎の屋上で円陣を組み、必死に津波に耐えようとしている人たちがいた。 そこには、強い決意で女性、高齢者、若い職員たちを円陣の内側に入れ、生死の瀬戸際にありながら、最後まで人間の尊厳と誇りを失っていない姿があった…。 「その時、何が起こっていたのか」今だからこそ明らかにできる防災・危機管理アドバイザー山村武彦による渾身のノンフィクション。


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3第1章勇者たちせ合っている下段の円陣。いずれの円陣も役所のジャンパーや防寒衣を着用した職員たちが外側を固め、内側の住民、女性、若者たちを次の大波から守ろうとしているようにみえる。円陣の内側に誰がいたのかは定かでないが、屋上にいた職員は皆、地震直後から町と住民を守るための職務を遂行してきた人たちである。3階建ての屋上まで波が来ているということは、家族が自宅にいたら助からない。よほどの高台でなければのまれてしまう。次の大波を予感し背筋を凍らせながらも、我が子は?妻は?夫は?親兄弟は?ぎりぎりまで近しい人を案じていたのではなかろうか。本庁舎の赤い屋根がバリバリッと音を立てて二つに割れ、みるみる黒い水に押し流されていく。信じられない見たくない光景だった。本庁舎の反対側に総務課長のお宅がある。家の中には課長の奥さんがいるらしく女性職員たちが、「だめぇー」「せっちゃん!せっちゃん!」泣きながら悲鳴を上げている。課長のお宅の屋根がぐらりと揺らいだ。斜めに傾きゆっくり山の方に流されていく。みんながうらやむほど夫婦仲がよかった。その奥さんは愛犬2匹と2階にいるはずである。課長は唇を噛んでフェンスから身を乗り出すようにしていた。誰も課長を見ることがで


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