南三陸町 屋上の円陣 ―防災対策庁舎からの無言の教訓―

「きっと守り抜く」 宮城県南三陸町の防災対策庁舎の屋上で円陣を組み、必死に津波に耐えようとしている人たちがいた。 そこには、強い決意で女性、高齢者、若い職員たちを円陣の内側に入れ、生死の瀬戸際にありながら、最後まで人間の尊厳と誇りを失っていない姿があった…。 「その時、何が起こっていたのか」今だからこそ明らかにできる防災・危機管理アドバイザー山村武彦による渾身のノンフィクション。


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23第2章「奇跡のイレブン」それぞれの3・11モーションのようだった。以前「交通事故の瞬間、周囲の風景がスローモーションに見えることがある。それは危険を感じた時に危機回避機能が本能的に働きだし、その瞬間だけ視覚の処理能力が通常よりも数倍高まることによって、周囲がゆっくり動いているように見える」と聞いたことを思い出す。危機回避機能が働いているのか、時間がゆっくり流れているように見える。不思議なほど冷静な一方で、何でもいいから早く収まってほしいと願っている自分がいた。什器備品は転倒防止対策がしてあるので倒れなかったが、智さんは、「ついにアイツがやってきた」と胸の奥で叫んでいた。アイツとは、宮城県第三次地震被害想定の宮城県沖地震のことである。この被害想定が発表されたのは志津川町と歌津町が合併する前年だったため、両町にはそれぞれ別々の数値が出されていた。宮城県沖地震(連動)が発生した場合、両町とも震度6弱の揺れが想定され、歌津町への津波到達想定時間は地震発生後23・9分、想定される津波の最高水位6・9M。志津川町は25・4分後に6・7Mの津波となっていた。防災庁舎の地震計は「震度6弱」を表示していた。ついに想定通り震度6弱のアイツがやってきたのだ。ということは25分後に、


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