南三陸町 屋上の円陣 ―防災対策庁舎からの無言の教訓―

「きっと守り抜く」 宮城県南三陸町の防災対策庁舎の屋上で円陣を組み、必死に津波に耐えようとしている人たちがいた。 そこには、強い決意で女性、高齢者、若い職員たちを円陣の内側に入れ、生死の瀬戸際にありながら、最後まで人間の尊厳と誇りを失っていない姿があった…。 「その時、何が起こっていたのか」今だからこそ明らかにできる防災・危機管理アドバイザー山村武彦による渾身のノンフィクション。


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18だけしか考えや行動の自由度を失ってしまう。アンカリングは認知心理バイアスの一種、バイアスとは思い込みや偏見のこと。根拠の是非にかかわらず、初めに認知した数値(アンカー)にとらわれて、その後の数値判断を危うくする心理的傾向のことである。地震発生時に津波に警戒したとしても、毎日目にする過去の津波高さが知らず知らずに刷り込まれていく。するとそれがアンカー(錨)となって、無意識にその高さ以上に避難すればいいだろうと判断を鈍らせ、避難行動を誤る危険があるのではと話した。心理バイアス視点の考え方は初めてだと職員たちは強い関心を示していた。しかし、今から思えばそんな一般論より職員たちの避難マニュアルについて質すなど、もっと実践的なことを話すべきだった。それに防災庁舎の2階が対策本部になり職員の避難場所がその屋上になるとは思ってもいなかった。標識に限らず、それまで南三陸町の津波対策はチリ地震津波を基にしてきた。海岸線の堤防はチリ地震を基準にして5・5Mとなっていた。しかし実際の津波は断層の位置、食い違い量、向き、壊れ方、海底の地形、湾の形状などによっては想定の2倍以上になることも珍しくない。北海道南西沖地震のことをもっときちんと伝えておくべきだった。それに、地震学や津波研究が飛躍的に進化しているというものの、予測技術の精度はさほど高くなく、被害想定や津波想定はその誤差を含めて考


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