

【特集:私小説のポストモダン】
明治以降の近代文学史の転換点として、大正12年(1923)の関東大震災と、昭和20年(1945)の敗戦がありました。
震災後には新意匠としてマルクス主義文学やモダニズム文学が文壇を席巻し、廃墟と化した終戦時には戦後文学が台頭しました。
そして私小説は各時代の思潮の底をくぐりながら、百年の文学史を貫いて今日に至っています。
事実をありのままに描く古典的私小説は過去のものとなりましたが、ポストモダン時代の現在において、そのスタイルは新たな文学の可能性となっているのではないでしょうか。
平成の大災禍は現代文学にどんな転換点をもたらすのか。
予想はできませんが、現代の地平から改めて私小説の解釈的読み直しと再発見を試みます。
●総論
・私小説、その「虚」と「実」の織物
/関東学院大学教授 富岡幸一郎
●随筆
・私小説と私小説家の間
/作家 佐伯一麦
●可能性としての私小説
・私小説の嚆矢――田山花袋の「蒲団」
/文芸評論家 尾形明子
・別れたる妻に届かない手紙――近松秋江『疑惑』を読む
/フェリス女学院中学校・高等学校教諭 嶋田直哉
・正宗白鳥――「懐疑」と「憧憬」の劇
/関東学院大学教授 岩佐壮四郎
・「私小説」への接近――志賀直哉文芸中期の変容
/二松学舎大学教員 山口直孝
・牧野信一の「鏡」と「レンズ」
/立正大学非常勤講師 葉名尻竜一
・不孝にして不敬なるもの――嘉村礒多の身と心
/文芸評論家 井口時男
・忘れられそうな小さな日常――尾崎一雄
/早稲田大学教授 石原千秋
・網野菊・方法としての「藪の中」
/法政大学非常勤講師 梅澤亜由美
・職業としての私小説家――川崎長太郎とメディア社会
/早稲田大学非常勤講師 山本幸正
・私小説という信仰告白――上林暁
/文芸評論家 川村湊
・鬼が、まだいた――藤枝静男「空気頭」から「悲しいだけ」へ
/作家 佐藤洋二郎
・太宰治「きりぎりす」論――「あり」と「こほろぎ」と「きりぎりす」――声と変態
/文芸評論家・日本映画大学教授 川崎賢子
・島尾敏雄――その作品群の輪郭
/作家 中沢けい
・どこまでも明晰な狂気――小川国夫の超私小説
/大阪芸術大学教授 長谷川郁夫
・三浦哲郎「忍ぶ川」論――〈私小説〉としての古さ/新しさとしての〈私小説〉
/本郷中学校・高等学校教諭 木村友彦
●平成の私小説家たち
・現代私小説の宗教性
/文芸評論家 小林広一
・ポストモダン文学としての私小説――車谷長吉の位置について
/文芸評論家 田中和生
・佐伯一麦のあたらしい美しさ
/音楽評論家、学習院女子大学講師 杉原志啓
・柳美里小論――「私小説」に求めるもの
/亜細亜大学教授 原仁司
・?造命――西村賢太讃江
/詩人 正津勉
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●新刊紹介
・青木生子・原田夏子・岩淵宏子編『阿部次郎をめぐる手紙 平塚らいてう/茅野雅子・蕭々/網野菊/田村俊子・鈴木悦/たち』
/城西短期大学教授 長谷川啓
・増田裕美子・佐伯順子編『日本文学の「女性性」』
/二松学舎大学教員 山口直孝
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【連載】
●『注解 色道大鏡』巻第二・寛文格
/立教大学名誉教授、立教新座中学校・高等学校校長 渡辺憲司