

幕末、徳川家の治世が終焉を迎えようとする動乱の時代のなか、江戸画壇は最後の隆盛を極め、多くの魅力的な絵師たちが筆を競っていました。
なかでも仏画において強烈な個性を放った絵師が狩野一信です。黒船来航に大地震、幕府の衰退という、大きな混乱の時代に生み出された一信畢生の傑作「五百羅漢図」百幅は、鮮烈な色彩と陰影表現、時代に漂う不安感を写し取ったような奇異な絵柄をもち、高度な画力と感性で描きあげられた幕末期屈指の大作といえます。
増上寺(現東京都港区)に掲げられて多くの庶民の目に触れ、人々の祈りを受けてきた本作も、戦災によってしばらく公開の場を失っていましたが、近年その独特の画風と表現に注目が集まっています。
本書では五百羅漢図(百幅全図を掲載)をはじめ、現在確認されている一信の作品の多くを取り上げ、その生涯と画業を集成します。
東京国立博物館 特別展室長 松嶋雅人/著
ISBN:978-4-324-08743-5
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●はじめに
●絵師への道筋
伝記と画歴(伝記/画歴)/法橋・法眼の僧綱位
●顕幽斎時代の作品
浅草寺の絵馬/源平合戦図屏風/ギメ東洋美術館の羅漢図
●成田山新勝寺の障壁画と法橋時代の作品
釈迦堂の障壁画と天井画/大黒舞図
●五百羅漢図
増上寺蔵 五百羅漢図/本所羅漢寺/幕末絵師の光と影の表現/東京国立博物館蔵 五百羅漢図
・五百羅漢図(東京・増上寺)百幅・全図
●おわりに
●参考文献
●附論 五百羅漢図の行方
●図版目録