議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第55回 オンライン本会議がギャンブルでいいのか?

地方自治

2021.09.09

議会局「軍師」論のススメ
第55回 オンライン本会議がギャンブルでいいのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2020年10月号

 前号では、大津市議会BCPの感染症対応改訂版のポイントについて述べた。その中でオンライン会議の活用についても触れたが、今号では、議会のオンライン化について考えてみたい。

■オンライン会議の功罪

 コロナ禍によって、多くの会議や研修会等がオンライン化された。確かに全国から不特定多数が集まる場には、感染防止策としての効果は絶大で、特に議論の場がない講演形式のものでは、リアルの代替手段として確立された感さえある。

 しかし同時に、無条件にオンライン化を進めることが、先進と評されることへの違和感もある。

 なぜなら、活発な議論のためのツールとしては、オンラインの限界も感じるからだ。確かに議論は可能だが、決して必要十分なレベルにはなく、リアルとの差はまだ大きい。

 事実、民間の内部会議でもリアルでは議論百出だったものが、オンラインになった途端、単なる原案承認の場になってしまったとの話も聞く。地方議会のICT化ブームのように、手段と目的が倒錯しないよう、自戒することも必要だと感じる。

■議会のオンライン化への課題

 活発な議論が期待される地方議会においては、構成員である議員が当該自治体内の住民に限られることに鑑みると、参集時の感染リスクは低く、ソーシャルディスタンスが確保できるならリアル会議がベターであり、オンライン会議は、あくまで次善の策だろう。

 一方で、クラスター発生によって大津市役所本庁が全面閉鎖された苦い経験からは、緊急避難措置として議決まで完結できるオンライン本会議の導入の必要性も強く意識している。

 オンライン本会議を実現するにあたっての法的課題の一つは、地方自治法(以下「法」)113条の定足数と、法116条の表決に関する規定における「出席」の解釈である。一般的に「出席」とは特定の場所に現に集まることを意味し、物理的な実体がない仮想空間での会議に参加することをもって、「出席」とみなせるかということである。また、法115条の議事公開の原則を満たすことなども論点である。

 現行法でも可能とする解釈については、立法時にオンラインなど全く想定されておらず、物理的に実体がない異質なものまでも、学理解釈で包含させることは個人的には、否定的に解している。

■地方議会の現場における視点

 何よりも現場における判断で重要なことは、議決無効が司法の場で争われた場合に、有権解釈である「司法解釈」を如何に想定するかである。その観点からは、一般的に賛否両論の状況では、現場に余程のメリットがない限り、とても挑めないギャンブルではないだろうか。

 コロナ禍による「新しい生活様式」が定着しつつあり、議会においてもこれまでの常識とは異なる「新たな議会様式」が求められている。法治主義の観点からは、立法時と異なる大きな状況変化に対しては、本来、法改正で対応すべきものであろう。具体的には、緊急避難的措置として明確な位置付けや、議事公開原則との整合などについての法整備が必要と考える。

 地方分権や議会の自律権の大義のもと、解釈論での安易な対応を推奨することは、結果的に訴訟リスクを現場に負わせる無責任な論だと感じるのは、私だけだろうか。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第56回「コロナ禍はイノベーションを議会にもたらすか?」は2021年9月23日(木)公開予定です。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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