議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第53回 なぜ議会BCPが必要なのか?

地方自治

2021.08.12

議会局「軍師」論のススメ
第53回 なぜ議会BCPが必要なのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2020年8月号

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う非常事態を受けて、議会BCPへの関心が高まっている。

 今号と次号では、議会BCPについて考えてみたい。

■議会BCP策定の意義

 議会BCP(議会の業務継続計画)は、大津市議会が2014年に地方議会で初めて策定した。

 その必要性を最初に感じたのは、多くの自治体で新年度予算が専決処分された、東日本大震災の際である。憲法93条に設置根拠をおく地方議会は、平時だけのものとは規定されていない。憲法は議会が議事機関として常に機能発揮することを求めており、非常時であることをもって、安易に専決処分に委ねることは許されないだろう。

 だが、議会が合議制機関であるがゆえの弱みが、非常時には顕在化する。警察、消防などの非常時対応を主任務とする組織は、迅速な意思決定ができる強固な指揮命令系統を有しており、それこそが非常時対応する組織の要諦であろう。

 しかし、議長の指揮命令権は議事運営以外には法定されておらず、合議のうえでの意思決定は時間を要する。議会は最も非常時対応に向かない組織とも言えるだろう。

 ゆえに非常時でも議事機関として機能発揮するには、平時とは異なる体制、運営等を、独自に定めておくことが必要となるのである。

■議会BCPのポイント

 したがって、議会BCPの第1のポイントは、非常時の指揮命令系統を議会に確立しておくことである。

 大津市議会では、執行部の災害対策本部と同時に設置される「議会災害対策会議」で、議長に会派代表者に対する指揮命令権を付与するとともに、欠員時の指揮命令順位を明示している。

 第2のポイントは、議員からの情報や要望は議会災害対策会議で集約して、執行機関に伝えることである。定めがなければ議員個人として執行機関に直接伝えることになるが、非常時には執行機関職員を悩ませることになる。特に要望事項の全体優先度が高くない場合は、飽和状態にある執行機関にさらに負荷をかけるだけで、全体の災害対応の進捗を阻害するという合成の誤謬を生むからである。

 目指すべきは自治体としての全体最適であり、機関としての部分最適ではない。議員個人として満足できても、自治体全体としての最適行動でなければ、非常時における市民福祉の向上は期待できない。

 第3のポイントは、具体的な行動指針を定めておくことである。

 例えば地震時には、議会災害対策会議の委員は震度5強以上で即時本庁舎に参集することになるが、それ以外の議員は、初動3日までは地域の構成員として活動し、4日目から7日目までの中期には、必要に応じて全議員を招集する。中期における議会災害対策会議では議会再開に向けての準備を整え、1か月までには暫定的であっても議会活動を再開し、それ以降は平常レベルに復帰させることを目指している。

■想定外を想定する必要性

 しかし、今回のコロナ禍対応では大津市議会BCPは必ずしも十分には機能しなかった。BCPは、もとより発生頻度の高い豪雨災害や地震被害を主に想定したものであり、感染症対応に関しては具体的な議論がされてこなかったからである。

 コロナ禍中の対応については、次号で述べたい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第54回「目指すべき議会BCPのミライとは?」は2021年8月19日(木)公開予定です。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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