議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第10回 議会の「常識」は誰が決めるのか?

地方自治

2020.06.04

議会局「軍師」論のススメ
第10回 議会の「常識」は誰が決めるのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2017年1月号

*議会の中央に座るのは、大津市のキャラクター「おおつ光ルくん (おおつひかるくん )」。

何をもって議会の意思決定とするのか

 世の中には、例規のように明文化はされていないが、前提として疑わない認識としての「常識」がある。それは時として普遍的な真理のように語られるが、「常識」は地域や業界によって異なり、また、時代とともに変遷していくものでもある。そして、議会の世界での「常識」の一つには、議決に拠らなければ議会の意思決定はできない、というものがある。だが、本当にそうだろうか。

 大津市議会では現在「(仮称)大津市議会意思決定条例」の制定を検討している。その概略は、議会運営委員会決定や議長決裁をもって、議会の意思として差し支えないと判断した事項を、あらかじめ条例で定めて機動的な議会の意思決定を実現しようとするものである。市民視点からのメリットとしては、形式的議決を得るためだけの臨時会開催に要する費用や時間の節減に資するものである。

 そのようなことを考えた動機のひとつには、前号で述べた『逐条地方自治法』(以下「逐条解説」という)著者の松本英昭氏との出会いにある。議会の専門的知見の活用については、「逐条解説」の地方自治法(以下「法」という)100条の2の[解釈]に議決を必要とするとの見解が示されており、制度運用の機動性を確保するため、大津市議会では法非適用との立場をとっている。

 だが、松本氏との議論のなかでは、法に根拠を置かない専門的知見の活用に係る公費支出については疑念が示された。当時の大津市議会では、議員クラブという互助会会計から必要経費を支出していたが、いずれ公費からも支出しなければ継続できないと考えていたため、機動的運用と法的安定性を両立させるべく、議決をとらずに法適用する方法を模索し始めた。

 もちろん、独自の法解釈で、条文に「議決しなければならない」とは書かれていないため、議決せずとも法適用は可能との見解も採り得る。しかし、その場合でも、何をもって議会の意思決定とするのかを、市民に明示する必要性があると思ったため、機動性の確保の方法論について、改めて考えることにしたのである。

常識こそ疑え

 法に「議決しなければならない」と明記されているのは一部であり、多くは「議会は~できる」「議会の同意を得て」「議会の承認を得て」「議会の意見を聴いて」などの表現がとられている。したがって、法に「議決」と明記されていなければ、首長が事務決裁規程を定めて、全てを首長決裁としていないのと同様、議会の意思決定もあらかじめ条例で委任規定を定めておけば、議決以外でも可能と考えたのである。

 松本氏も、「法文中の議決という単語の有無は意識的に使い分けられており、議決と明記されていなければ柔軟な議会運営は可能」との見解だと、間接的に聞いてはいるが、他に例のない条例であり慎重に検討している。そして、合議制機関の制度的弱点である意思決定手続の機動性不足を少しでも補う「常識」と、いつか議会の世界で言われるものを目指している。

 「常識」は、多くの人の内面で権威化され、いつしかそれを常に前提に据えて思考を始める。だが、その「常識」こそ疑ってかからなければ、議会の現場における進歩はない。それは、時代や状況が移りゆくにもかかわらず、いつまでも100%正しいと言い切れることなど、そもそもあり得ないと思うからだ。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
大津市議会局長
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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