月刊 自治体ソリューション 9月30日まで!創刊記念キャンペーン!!
お申込はコチラ
お電話での申し込みはコチラ
月刊 自治体ソリューションとは? ICTの戦略的活用情報誌 定期的に新鮮な情報が届く 確かな情報を多彩な執筆陣が解説

創刊号目次

北川正恭×熊谷俊人 マイナンバー・ICTが自治体業務・住民サービスを変える!

北川正恭教授は三重県知事時代に第 1 期分権改革を牽引し「分権の旗手」のひとりである。
いち早く事務事業評価システムを導入し、従来の「行政文化」の改革に力を注いできた。
今は民間・教育の現場から行政改革に関する様々な提言を発信している。

一方、熊谷俊人市長は第 2 期分権改革のさなかに政令市の青年市長として登場し、公共事業のあり方を変えるなど、ドラスティックな改革を実践。
また ICT技術を駆使した市民との双方向の対話や行政サービスの変革など、市民目線の改革に挑んでいる。

今号では、「地方分権」と「行政改革」を通じて地方自治、社会構造の改革に挑むお二人に「ICT 技術の進化と自治体の未来戦略」について、
とりわけ対応を迫られる「番号制度」にどう取り組みどう生かしていくべきかについて話し合っていただいた。

対 談

リスクは国家が国民を管理するという逆転の発想になりかねないこと。
国民が本当に国家を管理するという決意がなければ
マイナンバー制度は成功しない

熊谷
北川先生は2010年12月に「わたしたち生活者のための『共通番号』推進協議会」を組織し、積極的に運動を展開してこられました。その理由はどこにあったのですか。
北川
一つは、年金の杜撰な管理や未払い問題が象徴するように、今の日本は民主国家とは言えないということ。もう一つは、東日本大震災の際に金融機関などで名寄せができずに苦労したという現実的な問題が表面化したのがきっかけです。
熊谷
民間の立場から立ち上げられたのは、国が主導すると税の捕捉など、効率性ばかりに目が向いてしまうと考えたからですか。
北川
私は、番号制度は民主主義のインフラだと思っています。ですから国民にとって便利で使い勝手の良い制度にしなければいけない。協議会名に「わたしたち生活者の」とつけたのも、そのためです。周知の通り、法律は昨年 5 月に通りましたが、内容的には満足していません。今後は民間との連携まで視野に入れて議論してもらいたいと思います。

きたがわ まさやす 1944 年生まれ。早稲田大学第一商学部卒。三重県議(3期連続)、衆議院議員(4期連続)を務め、 95年4月から2期8年間三重県知事。2003年4月から現職

50年後も通用する国家と国民の関係を構築するんだという共通認識を
国民をはじめ国、自治体、公務員、メディアが持たなければいけない。

熊谷
運用面で大事なのは、自分の情報がいつ何時、どういう人にアクセスされたのかがわかること。もう一つは、アクセスや利用に対して拒否することができる、つまり選択できる仕組みをシステム的に担保することだと思うのですが。
北川
まさしく私が一番懸念しているのが、そこなのです。そもそも国は縦割りで成り立っているため、情報が全部オープンになる横展開のネット社会になるとコントロール不能になると不安を持っている。一方で、それを恐れて利用範囲を狭めてしまうと住基ネットの二の舞になりかねないわけです。
熊谷
膨大なお金と手間をかけるのだから、住基ネットの二の舞だけは避けなければいけない。そのためには 50 年後も通用する国家と国民の関係を構築するんだという共通認識を、国民をはじめ国、自治体、公務員、メディアが持つべきです。それができなければ、マイナンバーは絶対に普及しないし、次のステージにも行けないと思います。
北川
おっしゃるとおり、21 世紀型の国家と国民の関係を構築するには、このツールが必要なんだということを、国民的な議論により喚起するべきです。例えば年金問題にしても、未納問題は縦割りの弊害ですし、未払い問題は申請主義の弊害です。子育て関連のサービスにしても、子どもが生まれたという申請をしない限りサービスを受けられない。つまり知らないから不利益を被るというのは文化的な生活を享受する権利の侵害であり、憲法違反なのです。だからこそお知らせ主義、プッシュ方式に転換させなければいけない。マイナンバーは、受給できるサービスや関連情報を自動的に提供する公平、公正な社会の実現に不可欠なツールなのです。
熊谷
その意味では、今回国が打ち出した臨時福祉給付金は象徴的な事例だと思います。消費税率が8%へ引き上げられるのにともない、所得の低い方々に対して暫定的・臨時的に支給されるものですが、保有する税情報を福祉の事務に流用できない規定があるため、やむを得ず全戸約 44万6千世帯に案内をポスティングします(8 月実施)。今後もこんな非効率な運営を続けるべきなのでしょうか。
北川
年金問題とまったく同じで、見なかった、気づかなかったら受給できないということですね。

(以下、創刊号に続く)

くまがい としひと 1978 年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2001年 NTT コミュニケーションズ株式会社に入社。 06 年退社し、07 年千葉市議会議員に初当選。09 年から市長。

鈴木一広

 

JS[自治体ソリューション] COMMENTARY

我が国におけるオープンデータの取組み

(1)背景

近年、オープンデータに対する関心が高まっています。
その技術的な背景としては、インターネットの普 及、コンピュータの能力向上、端末の高度化・多様化 等により、提供側はデータを低コストかつ即時に提供 でき、利用側は大量・多様なデータを処理・利用でき るようになったことがあります。

このような技術の進展を受けて、政府、独立行政法 人、地方公共団体等が保有する大量・多様な公共デー タを、ビジネスや身近な公共サービスに活用すること が期待されています。
海外で先進的な取組みが行われ ていることや、東日本大震災の際、災害関連情報の収 集・整理に多くの時間が必要とされるケースがあった ことなども、関心が高まっている要因と考えられます。

(2)オープンデータの意義
オープンデータを簡潔に説明すると、公的機関が保 有するデータ(公共データ)を、民間が編集・加工等 をしやすい形で、インターネット上で公開する取組み です。それにより、公的機関が有する大量・多様なデータを、コンピュータで高速に、横断的に組み合わせて 処理・利用することが可能となります。 後述する政府の文書では、オープンデータの意義に は、1経済の活性化・新事業の創出、2官民協働によ る公共サービスの実現、3行政の透明性・信頼性の向 上の 3 つがあると整理しています。

(以下、創刊号に続く)

井堀幹夫

いほり・みきお 1972年市川市役所に入庁。総務部事務管理課(電算課)係長、企画部 情報システム課課長、情報システム部部長、市川市CIO(情報政策監)などを歴任。2011 年1月から現職。2014年4月から地方公共団体情報システム機構理事(非常勤)を兼務。

連載 「電子自治体の取組みを加速するための10の指針」活用術

第一回 新たな電子自治体への 変革期(1)

新たな電子自治体とは
電子行政については、これまでも行政運営の効率化 や行政サービスの品質向上等への効果が期待できるた め、自治体において様々な電子行政に関する施策が進 められてきました。しかし、その評価は、既存の制度 や慣行をそのままにした行政改革の伴わない電子行政 の取組みが多く、十分な成果が得られていないことか らマイナス評価とせざるを得ません。

しかし、これからはクラウドコンピューティング技 術やマイナンバー制度等に対応した新たな電子行政へ の取組みによって、行政改革を伴う評価に値する展開 が期待されます。

政府は、平成 2(5 2013)年 6 月 14 日の閣議決定で「世 界最先端IT国家創造宣言」において、我が国が目指 すべき社会の実現に向けて、閉塞を打破し、再生する 日本へと成長し発展するために、新たな電子行政の必 要性を掲げました。そして平成 26 年 3 月には、総務 省から「電子自治体の取組みを加速化するための 10 の指針」が公表され、全国調査結果による電子自治体 における現状と課題を整理し、新たな電子自治体を推 進する方策が示されました。

新たな電子自治体の特徴は、「連携・共同・標準化」 がキーワードです。例えば、近隣の自治体や民間等と 連携することで行政サービスの充実や付加価値を高め るとともに、コスト削減やサービスレベルの地域格差、 官民格差の解消を図るのです。つまり「行政運営の連 携や共同化の進展により、これまでの自治体単位に完 結した行政運営のあり方を大きく変える必要がある」 のです。もう少し具体的に言うと、連携を基軸とした 自治体の業務システムの共通化及び標準化による全体の最適化を進展させることによって行政サービスの高 度化を追求するということです。その実現には、一部 の担当部署や業務の都合を優先して単独で進めるので はなく、組織内全体の業務システムの連携を視野に入 れた取組みや、他の自治体及び民間と連携した取組み を共同で進めることが求められます。少子高齢化や地 域活性化、行政改革などの行政課題に対応するととも に恒常化している地方の財政難を克服するためには、 標準化された連携モデルを自治体が共同で活用する電 子行政を推進することが必要なのです。

この電子自治体を推進するためには、目的や必要性、 効果、業績指標(KPI)を適正に評価する必要があ ります。というのも、これまでは電子自治体といえば、 情報政策課が担う内部業務中心の電子行政と捉えられ がちでしたが、今は農業、観光、商店街、地域医療・ 介護、健康増進、教育など、IT の利活用の場は大き く拡がっているからです。そういう意味では、首長の 主導のもとで、全庁的に電子自治体を推進する新たな 段階に入ったと言えると思います。

(以下、創刊号に続く)

久野譜也

1962年生まれ。筑波大学大学院博士課程医学研究科修了。医学博士。東京大学大学院助手、アメリカ・ ペンシルベニア大学客員研究員を経て、96年より筑波大学先端学際領域研究センター講師、04年より同 大体育科学系准教授、2011年より現職。02年に健康増進分野日本初の大学発ベンチャー株式会社つくば ウエルネスリサーチを設立。全国の自治体と連携しながら「健幸」をまちづくりの基本に捉え、総合的な 健康政策を推進・実行する「Smart Wellness City首長研究会」を設立。政府各府省の委員なども務める。

連載 スマートウェルネスシティの実践

高齢化・人口減対策としての
Smart Wellness Cityの可能性

(1)背景

はじめに
我が国では今後 10 年間で高齢化の加速度的進行と人口減がみられるため、健康状態により生じる多様な 問題は、これまで以上に大きな社会的課題となる。また、国民の安心及び経済力の維持という視点からも、この解決策を具体化していくことが重要である。健康状態に最もインパクトを与えるのは、若年期及 び中年期からの発症者が多い生活習慣病である。
それゆえ、その克服が求められるわけだが、現実的には政策的にも上手くいっていないのが実情である。一方、最近になって都市環境が糖尿病者数の増加に 大きな影響を与えていること等、多数のエビデンスが示されている。そこで本稿では、我が国の課題である健康寿命の延伸における都市の役割について論じたい。

自治体における課題
多くの人が承知しているように、生活習慣病の克服には、国民が生活習慣において、特に運動と食事をコントロール出来れば、一定の成果が得られる。それは 科学的に証明されているが、多数の取組みが世界中で 試行されているにもかかわらず、うまくいっていない のもまた現実である。さらに、今後 75 歳以上、すなわち後期高齢者が増加する我が国では、いかにこの層 における虚弱化の速度を減じ、生き生きとした日常を 送れるようにするかが、重要な課題であるといえる。

これらの課題を解決するためには、複数の政策の組み合わせが求められるが、中心となる政策群の1つは、間違いなく予防施策である。例えば、我々の研究グループでは、科学的根拠による個別処方を基盤とした運動と食事による健康サービスをICT 化し、これまで全 国約 50 の自治体に提供してきた。その結果を見る限 り、どの自治体でも一定の生活習慣病の予防効果、及び医療費の抑制効果を得ている(新潟県見附市では年間1人約10万円)。

(以下、創刊号に続く)

武城文明

ぶじょう・ふみあき
1954年生まれ。慶應義塾大学工学部卒。77年(株)日立製作所入社。90年シュロス・システムコンサルティング創業。2004年より埼玉県行政ITアドバイザーに就任。以後、東京都荒川区、鹿児島県西之表市、和泊町等、多くのIT支援に携わる。

リレー連載 プロサポーターが伝授する地域情報化の “ワザ ”

「番号制度」の準備

私が自治体の支援をするようになったのは、平成16年からである。縁あって埼玉県庁のお手 伝いをするようになり、その後、埼玉県内の市町村を 廻るようになった。さらに平成24年からは総務省の「ICT地域マネージャー」を拝命し、今では10か所以上の都道府県と関わっている。

そうした中で、昨年5月24日に「行政手続におけ る特定の個人を識別するための番号の利用等に関する 法律」が可決・成立したことにより、いま私が指導し ている 20 余の市区町では運用に向けた準備が始まっ ている。自治体ごとに準備のプロセスは異なるが、いくつかの事例を紹介したい。

「番号制度」は基本的に住民サービスの質的向上を 図るものだが、その前提として各市町村は活用するた めの体制を整えなければならない。直接関わる原課だ けではなく、間接的に関わる原課、将来的に関わる可 能性が高い原課まで入れるとほとんどの部署が関わる ことになる。したがって大事なのは、全職員が「番号 制度」について “ 共通意識 ” を持つことである。

事例:埼玉県川越市
平成 25 年 6 月、具体的な作業に入る前に関係原課 の職員を対象に3日にわたり説明会を開催。『何が変 わるのか』『何をすればよいのか』という職員の通常業務に関わる部分まで詳細に説明することにより、全 職員の意識の共有化を図った。説明会を契機に行政改 革推進課職員を中心に計画づくりが進められ、26 年 度からは具体的な準備段階に入っている。

事例:埼玉県行田市
企画政策課と広報広聴課で全体業務の想定を行った 結果、該当する原課の協力が必要であることが判明したため、全原課の職員を集めて研修会を開催。その研修会で『何をいつまでにすればよいのか』という具体的な方向性に関する意識の共有化が図られ、現在、該当する原課との打ち合わせが精力的に進められている。

事例:埼玉県杉戸町
総務課と情報統計担当を中心に全職員の意思の疎通を図ることを目的に研修会を開催。管理職研修と職員研修の二本立てで行うことにより、作業開始に向けて 円滑な予算執行や体制整備が期待できるようになった。

事例:埼玉県寄居町
県内クラウドを推進した企画課と財務課が、番号制度の導入をその延長線上の業務と捉え、全原課の職員 に向けて研修会を開催。現在、各原課との打ち合わせが始まっている。

(以下、創刊号に続く)

阿部知明

 

これだけは知っておきたい!マイナンバー制度

第1回 すべての部署、すべての職員が必要な知識

マイナンバーは地方公共団体のすべての職員に関係する

まず、この認識を持っていただくことが極めて重要である。前回ご紹介したように、マイナンバーの利用 範囲は、社会保障、税、防災に限定されており、条例 で事務を追加することが可能となっているなど一部例外はあるものの、原則としてはマイナンバー法別表第1に全て規定されている。

これらの事務を、架空の地 方公共団体においてトレースしたのが図1である。青地に白抜き文字は住民基本台帳やシステムなどマ イナンバー制度の基幹となる部分を担う部署、青の網掛けは社会保障・税・防災の業務を担う部署である。グレーの網掛けは職員の人事管理を行う部署。前回説 明したとおり、例えば、職員に給料を払う場合に源泉 徴収をすることとなるが、その際、これらグレーの部 署は職員からマイナンバーを取得し、それを税務署等 に伝えることとなる。なお、この際集めたマイナンバー を、地方公共団体内部の人事管理一般に転用すること 等は認められないので注意が必要だ。
そして、全体を 総括する首長・副首長や、マイナンバー制度全体の導 入・運用をマネジメントする総務部や番号制度主管課 は黒地に白抜きで表されている。

では、白い部分はマイナンバーと全く関係ないのだろうか。二つの意味でそれは間違っている。一つは、先ほど述べたように一職員として、人事課等に対して 自らのマイナンバーを提供する必要がある。しかし、これは提供を求められてから出せばいいといういわば受け身の話だ。一方、もっと重要なのは、網掛けのな い(白い)部署は、マイナンバーを扱っては「いけない」ということだ。利用目的が限定されているということは、それ以外には使ってはいけないのであって、 それ以外の部署でマイナンバーを取得したり利用したりすることは認められない。この意味で、マイナンバー の扱いは全ての職員が知っておかなければならない。 こうした周知も含め、地方公共団体内部でのマイナンバーに関する職員研修は不可欠であろう。

(以下、創刊号に続く)

松元照仁

 

連載 特定個人情報保護評価の意義とその運用

特定個人情報保護委員会の設立とその役割

はじめに
2014(平成 26)年1月1日、いわゆる番号法に基づき「特定個人情報保護委員会」が設立された。私自身、昨年12月に内閣官房社会保障改革担当室参事官 の発令を受け、本委員会の立ち上げ準備に関わるとともに、本年1月から事務局総務課長を務めていること から、1月の委員会立ち上げからこれまでの活動を振 り返りつつ、本誌の主な読者である地方自治体とそれに関わる民間企業の職員・社員である皆様と、番号制度のいわば肝とも言える特定個人情報の保護のあり方について、委員会での議論等も踏まえて考えていけれ ばと思っている。

本稿では、これまでの半年間で特に委員会において 注力してきた「特定個人情報保護評価」の意義とその運用を中心とすることとしたいが、その前提として、本号では、特定個人情報保護委員会の意義や役割について押さえておきたい。このことから、現在のところ、概ね以下の構成の連載により、本稿をまとめていきたい。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であるので、あらかじめお断りしておく。

構成予定
1 特定個人情報保護委員会の設立とその役割
2 特定個人情報保護評価の趣旨
3 特定個人情報保護評価の目的
4 特定個人情報保護評価の実施の仕組み
5 特定個人情報保護評価の実施上の留意点
6 特定個人情報保護評価の最近の動き

(以下、創刊号に続く)

大山水帆

2013年4月から現職。「地方公共団体における社会保障と税に係る番号制度に関する研究会」委員、「マイナンバー制度に関する国と地方公共団体の推進連絡協議会」委員、「文字情報基盤 WG」委員、「文字情報基盤運用検討 SWG」委員 (IPA)、「地方公共団体の情報シス テム調達仕様書における非機能要件の標準化に関する調査研究会」委員 (LASDEC) なども 務める。

連載 マイナンバー制度導入に伴うシステム改修と実務ポイント

1番2番マイ何番?

はじめに
みなさん、こんにちは。埼玉県川口市情報政策課長の大山水帆と申します。
今回縁あって番号制度導入に向けた自治体における準備作業などに関する連載を担当させていただくことになりました。なるべく自治体 現場の目線で、よりわかりやすい内容を心がけますのでよろしくお願いいたします。

さて、川口市はありがたいことに情報部門では先進 市と言っていただくことが多いのですが、私たち自身 は先進的なことをやっているという意識は全くありま せん。現在、有効であると思われることを組み合わせて、できる範囲のことを普通にやっているだけという 思いがあります。たとえば、完全マルチベンダーの共通基盤システムを設計・導入した時、本当にうまくいくのか心配していただきましたし、絶対に失敗するだろうという意見もあったように聞いています。

しかし、 私たちは失敗しないという自信は常にありました。なぜなら、私たちはうまくいくことしかやらないからです。いわゆる先進性を目指しているわけでなく、目的達成のためにその時々で安全で最適な手段を選択して いるに過ぎないからです。しかしながら、番号制度においてはある意味、先進市でいなければならないと思っています。これも縁あって番号制度関連の国の委員などをさせていただい ているということは、自治体の代表として、いろいろなことを先に経験し、それを他の自治体に伝えていく 使命があると認識しています。また、番号制度そのも のだけでなく、番号制度を契機とした情報システムの全体最適化についても、機会あるごとにお伝えしていこうと思っています。

(以下、創刊号に続く)

地方税事務研究会

尾澤詳憲代表。地方税一筋に取り組んできた関東地方の政令 市職員で構成する研究会。本誌の執筆者は市町村アカデミー をはじめ、地方団体等で地方税の実務研修の講師を務めるほか、月刊『税』などの専門紙誌でも連載中。主著に『キーワードの比較で読むわかりやすい地方税 115 のポイント』『事例解説 地方税とプライバシー』(共に、ぎょうせい)など。

連載 マイナンバーが変える地方税務

地方税務はどう変わるか

マイナンバー誕生までのあゆみと挫折

「マイナンバー法成立年金・税、16年から一元管理」平成25年5月24日の日経新聞夕刊の見出しである。この日の夕刊は各社一斉に参院本会議で社会保障・税の共通番号(マイナンバー)法が可決・成立したことを報道している。
「共通番号法が成立個人情報93項目、政府が一元管理」(朝日新聞)、「マイナンバー法:成立、政府が一元管理国民の情報、給料、不動産など93項目対象」(毎日新聞)「共通番号法が成立16年から」(読売新聞) など。マイナンバー法、共通番号法と呼び方はいろいろだが、国民一人ひとりに固有の番号を割り当てて各種の 行政事務に活用する制度が我が国で初めて導入されることになった。この法案は、民主党政権で手掛けられたものだが、ほぼ同一内容で自民、公明の両党によって引き継がれ提出されたものである。「マイナンバー」というのは、民主党政権時代に公募によってこの番号制度に付けられた愛称である。法律の正式な名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(平成25年5月31日法律第27号以下「番号法」という。)という、やや長い名の法律である。

行政機関がそれぞれ番号を付けて保管する個人情報に共通の番号を付けて役立てようという試みは、30年以上も前から政府によって税務の分野で制度化が検討され、税制調査会などでも長年にわたり検討項目として掲げられてきたものである。全国民に固有の番号 を付けて所得等の情報を名寄せ管理する案は、「納税者番号制度」と呼ばれ、課税の公平、脱税対策として 税務の分野で起こった構想であった。いまでもあまり事情は変わらないが、営業所得や農業所得の所得把握率が低く、それに比して給与所得の把握率が高いことを「クロヨン」と呼び、税の執行面で負担の不公平が存在することを揶揄するものである。
不公平の是正にはこの納税者番号制度が有効であるが、国民の納得は容易でない。

そこで、これに代わるものとして昭和54年暮れに税制調査会において提案されたのが非課税所得の限度 額管理及び課税貯蓄の名寄せのための少額貯蓄利用者カード(いわゆる「グリーンカード」)制度であった。この答申を受けて政府は法案を提出。国会審議を経て可決成立後、昭和55年3月31日に公布されている。これによればグリーンカードの発行が58 年1月1日、制度の本格運用が59年1月1日とされ、この日から利子所得の総合課税が始まるはずであった。その後、 銀行預金から郵便貯金へと資金シフトが起こったことで、元凶としてこの制度がやり玉にあげられ、58年から3年の実施期限の延長の末、ついに昭和 60 年の 税制改正で廃止された。 納税者番号制度は、このような失敗を経ながらも、政府において累年検討が続けられてきたのである。今回の「社会保障と税の一体改革のための番号制度」は、納税者番号制度とはその装いは異なっているが、ようやくにして同制度が目指した公平な課税のための基盤 整備に踏み出したものということができる。

(以下、創刊号に続く)

その他、多数の執筆陣による最新情報を毎月お届けいたします。

目次